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突然の海外赴任4

突然の海外赴任3続き

「どうした?あいつの言う事はあんな事まで信用しようと努力したおまえが、俺の事は信用出来ないか?おまえが俺の言う事に逆らわない限り、勝手に離婚届を出す様な事はしない?」
「ごめんなさい。ただ条件が・・・・・・・。」

確かに離婚の時の条件は、裁判でもすれば全て通らない様な法外な物ばかりです。

「どこが気に入らない?全ての財産を放棄するという項目か?それとも慰謝料として1億円払うという所か?」

慰謝料が1億円など、有り得ない金額です。
しかし普通の金額では、稲垣が肩代わりする事も考えられたので、無理を承知でこの金額にしました。

「違います。理香の親権の所です。親権があなたなのは、わたしのやった事を考えれば仕方が無い事だと思います。ただ、離婚後一生会わないと言うのは・・・・・・・・。」
「そうか。おまえは今からもう、俺に逆らって離婚になる事を考えているんだ。離婚にならない様に、一生懸命償うのかと思っていたが、今は逆らわずに、ほとぼりが冷めるのを待とうと言う考えだ。言っておくが、今も俺に逆らっている事になるのだが?」

妻は慌てて署名しながら、

「ごめんなさい。今回だけは許して下さい。一瞬、理香と会えない人生を想像してしまいました。もう絶対に逆らいません。どうか許して下さい。」
「今回だけだぞ。その事はもういいから今夜は俺の好物を作れ。言わなくても何か分かるな?」

妻は材料を買いに行き、その材料を見ただけで、私の1番好きなハンバーグだと分かりました。
妻のハンバーグは絶品で、それを食べてからは外食でもハンバーグを注文した事が有りません。
いかし、いざ食べようとナイフとフォークを持った時に吐き気を覚え、娘が心配する中、私は無言でキッチンを出ました。

私は、寝室に行って寝転びましたが、これは妻への嫌がらせでは無くて、稲垣の物を散々触った手で捏ねたかと思うと、身体が受け付けなかったのです。
ハンバーグだけでなくご飯でさえも、妻がその手でといだかと思うと、食べる事が出来ないのです。
娘が食べ終わり、テレビを見ている間に寝室に来た妻は、

「すみませんでした。お気に召さなかったですか?」
「ああ。確かにハンバーグは好物だ。しかし今の様な精神状態の時に、あのような油っこい物が喉を通ると思うのか?おまえは全然反省していない。もしかすると、もう終った事だと考えていないか?俺の気持ちを少しでも考えれば、あんな物は作らないはずだ。俺はカップラーメンでも食べるから、すぐに買って来い。」
「ごめんなさい。私の配慮が足りませんでした。カップラーメンなどと言わずに、何でもおっしゃって下さい。作り直します。」
「聞こえなかったのか?俺はラーメンを食べると言ったはずだ。俺には逆らわなかったのでは無いのか?智子には『はい』以外の返事は無いはずだ。すぐに買って来い。」

その後も、妻の作った物を食べられる事は有りませんでした。

その間、稲垣への復讐も考えていましたが、私が思い付く事は違法な事ばかりです。
それでも良いと思っていても、娘や私の将来を考えると現実には出来ません。

私に出来る事は慰謝料を取る事と、精々行員同士の不倫なので銀行へ訴え、稲垣の社会的地位を脅かすぐらいの事でした。
先に銀行へ、ばらしたのでは、稲垣が困るだけの慰謝料は取れないと思い、銀行については何も触れないで、ただ慰謝料のみ文章で請求すると、次の日に電話がかかり、

「この度は申し訳ない事を致しました。慰謝料もお支払いする覚悟でいますが、5千万は余りにも法外で、高額すぎてお支払いできません。」
「法外?旦那のいる人妻を好きにしておいて、法外などという言葉がよく出てくるな。その事は法律違反だから、慰謝料が発生するのだろ?おまえから法外などと言う言葉が出てくるとは思わなかった。おまえはいくら位を考えている?」
「はい。500万を・・・。」
「俺も色々調べたが、確かに500万は良い額だ。でもそれで俺の気が晴れると思っているのか?俺は今回の事で一生苦しむ。おまえは一度車を買い換えるのを我慢すれば終わりだろ?そんな事で俺は許す気になんかなれない。俺の望みは金では無い。おまえも苦しむ事だ。よし、続きは銀行で話をしよう。」
「銀行だけは許して下さい。必ずこちらから返事を致しますので、暫らく考えさせて下さい。」

そう言った稲垣からは、1週間を過ぎても返事が来ず、お金と職を天秤にかけているのだと思っていましたが、私の知らぬ所で話は違った方向へ動いていました。
2週間経ち、私が痺れを切らして銀行へいつ乗り込もうと思っていた時、稲垣の代理人を名乗る弁護士から電話が有り、

「慰謝料300万で示談にして頂けないですか?そちらが離婚されない場合、私は300万でも高いと思いますが、示談をお願いするのですからこの金額にさせて頂きました。裁判をなされても、この金額より上は無いと思います。その上弁護士費用や裁判費用で、100万はかかる。結局手元に残るのは200万がいいところです。お互いに無駄を省く為に、示談を了承して頂きたい。」
「断る。俺はお金が目的では無い。」
「それでは何が目的ですか?今の日本では復讐は認められていない。稲垣さんから聞きましたが、5千万など有り得ない。余りに常識からかけ離れていると、恐喝で訴える事も出来るかも知れない。どちらにしても、今返事を頂こうとは思っていないので、後日私と会って頂きたいのです。今後の交渉は稲垣さんに直接せず、必ず私を通して下さい。」

この弁護士は仕事でこう言っていると分かっていても、この男まで憎くなります。

「分かりました。私も代理人を立てます。今後の話はあなたとお隣の犬とでお願いします。これでは代理人ではなくて代理犬になってしまうから駄目ですか?」
「私を侮辱するおつもりですか?」
「いいえ別に。私は、あなたを奴の代理人だと認めた覚えは無い。そんな事が通るのなら、私も代理の者を勝手に決めても良いはずだ。私が奴と直接話しては駄目だと、裁判所から勧告でも出たのか?人の家庭を壊しておいて、後は顔も出さずに知らん顔はさせない。」

これが法的に通る話かどうかは別でした。
しかし、この弁護士は私の怒りも多少は理解してくれ、後日稲垣と話す場を設ける事を約束してくれました。
ただし、2人だけでは無く、この弁護士の立会いの下ですが。

電話の後、私は稲垣の強気の訳を知りたくて、奥さんの携帯に電話をすると、稲垣夫婦の離婚が決まった事を知りました。
奥さんは怒りから、親戚や子供達にも話し、銀行へも話しに行ったそうです。
その結果出た処分が得意先への出向で、それも、小さな会社ですが常務として迎えられるそうです。

世の中など、この様なもので、悪い事をすればいつか地獄に落ちるなどと言うのは嘘で、悪い人間ほど上手く立ち回って行くのです。
向かい入れる会社も、稲垣の銀行とパイプを太くしたいのが見え見えで、全て承知で向かい入れるらしく、この事で稲垣を脅すのは無理になりました。

妻も銀行を辞めさせたので、稲垣との接点は無くなりましたが、何も怖い物が無くなり、自由になった稲垣には恐怖すら覚えます。
妻には事有るごとに散々嫌味を言って虐め、泣かせて来たのですが、思う様にならない稲垣への怒りも妻に向かい、今までしなかった性的な虐めをしようとしていたのですが、裸になる様に命じ、周囲に短い毛が生え出した逆三角形の陰毛を見ていると、稲垣を思い出し、嫌悪感を覚えてしまい触れる気にもなれません。

「なんだ?その陰毛は。久し振りに淫乱な身体を触ってみようと思ったが、汚くてとても触る気にはならない。でも、折角裸になったのだから、俺をその気にさせる様に、後ろを向いて尻を振って誘ってみろ。」

妻は、逆らわなくなっていて素直に従いましたが、私はその事が面白く有りません。
逆らえば離婚だと言っておきながら、妻が嫌がり、泣きながら私に許しを請う姿が見たいのです。

「いくら俺に言われたにしても、よくもその様な真似が平気で出来るものだ。そこまでして、この家にしがみ付きたいのか?」

妻は、それでも反論せずに、唇を噛んで涙を堪えていました。
私が稲垣と会ったのは、それから3日後の事です。

私には、ある考えが有り、弁護士に指定された喫茶店を断り、弁護士事務所で会う事にしたのですが、これは相手の懐に飛び込み、相手を油断させる為でした。

「慰謝料300万で示談に応じます。ただ一言謝って頂きたい。それで全て水に流すつもりで来ました。」

すると稲垣は、

「大変なご迷惑と苦痛を与えてしまいました。どうか許して下さい。」
「先日、先生の話を聞いてから後で考えていて『裁判なんかして長引かせずに、早く決着を着けて忘れ、新しいスタートを切った方がお互い幸せになれるぞ』と言ってもらっていると感じました。私も早くこの事を忘れたいので、これで終わりにしましょう。」

私が握手を求めると、稲垣は恐る恐る手を出しました。
その様子を弁護士は微笑んで見ていましたが、その微笑の中には、自分が説得をして私の考えをここまで変えさせたという、稲垣に対する自慢も有った事でしょう。
当然私は、憎い稲垣と握手をする気など無いのですが、目的の為には仕方が有りません。

「判を押す前に、今後妻と二度と連絡を取らない事と、二度と会わない事を書き足して頂けませんか?」
「その事は交渉する前に、稲垣さんに確認して有ります。稲垣さん、宜しいですね?」

稲垣は、一瞬返事を躊躇いましたが、弁護士の再度の確認に頷きました。

「それと、この約束を破った時の罰則もお願いします。そうでないと、その様な約束は無いに等しくなってしまいます。私は安心して暮らしたいだけなのです。本当は気が弱いので、何か無いと不安なのです。」

どの様な罰則規定を盛り込むか聞かれ、約束に違反した時には、5千万を支払うと書き入れて欲しいと言ったところ、

「それはいくら何でも無茶です。もう少し現実的な額で無いと。」
「そうですか?それはまた連絡を取り合う事も有ると言うことですか?それなら示談にするのは考えます。追加で書き込んでもらった事も、何の意味もなくなる。もう妻と会わないのなら、5千万でも1億でも良いと思うのですが?最初から破るつもりの約束なら意味が無い。私は先生の和解案に従いたかったのですが残念です。裁判所でお会いしましょう。」

私が立ち上がると、弁護士が再度金額を下げる様に提案してきました。
私は、稲垣の困る額が良かったのですが、あまり拘っても変に思われるので、結局1千万という事になりました。
この額ではあまり困らないとも思いましたが、最初からお金が欲しいわけでは無くて、稲垣を出し抜く事が出来れば、私の心も少しは癒されるのです。

私の考えている事は違法な事だと分かっています。
しかし、不倫と同じで発覚しなければ、なんら違法行為にはなりません。
これは妻に踏み絵をさせる意味も有り、妻さえ本当の事を言わなければ、ばれる可能性も無いと思うのですが、もしも妻が私を裏切り、犯罪者になった時は妻と稲垣に対して、本当の犯罪を起こしてしまうかも知れません。

私の口座に300万振り込まれた夜、妻に通帳を見せ、

「これを見てみろ。俺がこれだけ苦しんでいるのに、稲垣は300万振り込んで終わりにするそうだ。たったの300万だぞ。これならやった者勝ちだ。」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさいだ?おまえは気楽でいいな。まあ俺も考え方を変えれば、俺が遠くにいて使えない間の女房の穴を、300万で貸したと思えば得をしたのかも知れない。もうおまえの穴は使う気にならないから、次の男を見つけてもう少し稼がせてくれ。返事は?」

勿論、私にその様な気持ちは無いのですが、流石に妻もこればかりは『はい』とは言えない様です。

「俺の苦しさが分かるか?違法行為をしたくせに今は法に守られている奴には、何も出来ない俺の辛さが分かるか?」
「私が悪いのです。ごめんなさい。」
「私が悪い?まだ奴を庇っているのか?」
「違います。そうでは有りません。」

いよいよ私の計画を妻に話す時が来ました。

「それなら俺の気持ちを少しでも楽にしてくれないか?俺の復讐を手伝ってくれないか?」
「復讐?」
「余計な事は聞かなくてもいい。おまえが言えるのは、はいと言うのか、いいえと言ってここを出て行くかだ。」
「はい。お手伝い、、、します。」

私が計画を話すと、妻の顔色が変わりました。

「そうだ。俺がしようとしている事は、完全な美人局だ。智子さえ裏切らなければ、絶対にばれない犯罪だ。俺だって犯罪などしたくはない。誰が俺にこの様な事をしなければならない様にした?」
「私です。」

早速稲垣に電話をかけるように言うと、妻は電話の前までは行ったのですが、受話器を取ろうとはしません。

「俺のやろうとしている事はそんなに酷い事か?長年俺を騙し続けていた事よりも酷い事か?旦那が遠い国で、家族の為に一生懸命働いている間、他の男に抱かれて涎を垂らし、腰を振っていた事よりも酷い事か?」

妻は、ようやく私の指示通りに電話しましたが、話し方が余りにもぎこちなく、その上途中で泣き出したので、ばれないか心配しましたが、それが返って稲垣の心を揺さぶったようです。

「奴を騙すのが泣くほど辛いか?俺を騙し、裏切る事は平気で出来たのに。」
「違います。」
「まあいい。それより奴は何と言っていた?」
「そんなに辛ければ離婚して、私の所に来いと言われました。」
「それが嬉しくて、嬉し泣きだったのか。」
「違います。あなたに、この様な事までさせてしまう事が辛かったのです。」
「本当か?それよりも金曜日はどうなった?」
「会う約束をしました。ただ、あなたに言われた様に彼のアパートでは無くて、ホテルのロビーで会う事になってしまいました。」

稲垣は、私を警戒しているのでしょうが、まさか妻がこの様な事をするとは、微塵も思っていないはずです。
妻に無理やりさせている私でさえ、私の好きだった妻は、決してこの様な事は出来ない女だったと思っているのですから。

稲垣の仕事の都合で、夜の8時に待ち合わせているのですが、まずはホテルかその近くで食事をするにしても、アパートで会うのとは違い、その後の行動が読めない為に私が見失った時の事も考えて、どこかに移動する時は、その都度トイレからでも連絡を入れるように言って有りました。

2人で会わないという約束だったので、本来ならロビーに2人でいる所に乗り込めば充分なのですが、2人だけになった時に乗り込んだ方が、より効果が有ると思ったのです。

稲垣は警戒して、最初は辺りに気を配るだろうと思い、妻よりも少し遅れてホテルに行き、その後2人を尾行する計画だったので、今日は定時に退社するはずが、この様な時に限って余分な仕事が入り、退社出来たのが8時になってしまいました。

しかし、少しはロビーで話をするだろうし、その後は食事に行くと思っていたので安心していたところ、会社を出るとすぐに携帯が鳴り。

「彼に、このホテルに部屋をとっておいたので、今からそちらで話そうと言われましたが、私はどうしたら良いですか?」

平日でないと、出張に行っていて私が不在だと騙し難い事や、翌日が休みで金曜日の方が開放的になれる事などを考えてこの日にしたのですが、それが裏目に出てしまい、計画を断念する事も考えました。

しかし、妻から悩みを聞いて欲しいと言っておいて、ここで不自然に妻が帰ると言い出しては、稲垣は警戒して、もうチャンスは無くなるかも知れません。

「奴の言う通りにしろ。但し、奴が迫ってきても上手く逃げて、絶対に身体に触れさせるなよ。」

私はホテルに急いだのですが、早く着けたとしても3、40分はかかってしまいます。
ホテルに行く間、私の脳裏には、稲垣が妻をベッドに押し倒している姿が浮かびます。
妻に嫌悪感を持っていて、私は触る事すら出来なくなっていましたが、それでも稲垣に触れられる事は許せません。
稲垣だけで無く、もう二度と私以外の男に触れられるのは嫌なのです。

計画では常に私が近くに居て、2人だけになれる場所に入ったらすぐに妻に電話をかけ、2人で出て来るように言って、稲垣に事実をつきつける予定だったのですが、これでは私が到着するまで、何か有っても止める事が出来ません。

悪く考えると、稲垣に抱き締められてキスをされ、今の辛い立場が嫌でまた稲垣に寝返り、この計画を話してしまっているかも知れません。
気は焦るのですが、それとは逆に、タクシーに乗ったのが裏目に出て、工事渋滞などで1時間も掛かってしまい、ホテルに着いてすぐに妻の携帯に電話をかけたのですが、妻が出る事は有りませんでした。

フロントに稲垣の部屋を尋ねたのですが、教えてもらえる訳も無く、気が付くと私は家路に着いていました。

実家に預けていて娘もいない真っ暗な部屋の中で、何も考えられずに座っていましたが、何も考えてはいないはずなのに、何故か涙だけが溢れて止まりません。
少しして、人の気配を感じてそちらを見ると、暗がりの中に妻が立っていました。

「あなた・・・私・・・。」
「帰って来たのか?泊まってくれば良かったのに。俺が抱いてやれない分、奴に朝まで可愛がってもらえば良かったのに。」

私に有るのは絶望感だけで不思議と怒りは無く、力無い小さな声で話していたと思います。

「ごめんなさい。私、抵抗しました。必死に抵抗しました。でも・・・。」
「いや、別にいい。これは俺が仕組んだ事だ。それより気持ち良かったか?気を遣らせてもらえたか?」
「いいえ、最後まではされていません。あなたからの電話でひるんだ時に、このままでは、ばれてしまうと言って逃げてきました。本当です。」
「それなら、どこまでされた?キスは?」
「・・・。」
「裸にされたのか?乳首を吸われたか?」
「・・・。」
「最後までいかなくても、指ぐらいは入れられたとか?」
「・・・。」
「全然感じなかったのか?下着を見せてみろ。」
「それは・・・。」

私からの電話で稲垣がひるんだのではなくて、妻が我に帰ったのかも知れないと思いました。

「でも、もう彼に気持ちは有りません。彼に抱きつかれた時嫌だと思った。あなたをもう裏切りたくなかった。ずっと抵抗していたけれど、身体が・・・身体が・・・。」

妻の話が本当だとすると、あと10分私の電話が遅れていたら、最後まで行ってしまい、そうなると今日、妻が帰って来る事も無かったかも知れません。

「今回の計画を奴に話したのか?」
「話していません。本当です。あなた、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」

私は、稲垣に電話をしましたが、これも怒る事無く、淡々と話していたと思います。
次の日、稲垣は弁護士を伴って私の家にやって来ました。

「約束の違反金はこの前と同じ口座に振り込んでくれればいい。話は以上です。お帰り下さい。」
「その事ですが、今回の事は話が出来過ぎている。出張に行っているはずのご主人がいたのもおかしい。もしかしたら、これは・・・。」
「つまり、私が妻にこの男を誘惑わせたという意味ですか?そう思うのなら訴えて下さい。それで結構です。妻の私に対する気持ちに自信が持てず、出張だと嘘をついて、妻を罠に掛けたのは事実です。その結果がこの有様です。もう何もかもが嫌になった。もう生きているのが辛い。好きにして下さい。」
「相手を疑うのも私の仕事です。そういう見方も出来るというだけで・・・そう言わずに。」

怒るでも無く、呟く様に話す私が不気味だったのか、弁護士は焦っている様でした。

「稲垣さん、昨夜は妻がお世話になりました。妻を抱いてくれたみたいですね?妻は、喜んでいましたか?妻は無理やりされたと言っていますが?それでは、まるで強姦だ。」
「待って下さい。私は、ただ話をしていただけだと聞いている。稲垣さん、その様な事が有ったのですか?」
「いいえ・・・。」

私は妻を呼び、

「稲垣さん。もう一度、その様な事が有ったのか無かったのか答えて欲しい。」
「有りましたが・・・決して無理やりでは・・・同意の上で・・・。それに、最後まではしていません。」

妻の言った、最後まではされなかったと言うのは本当のようですが、私には妻が感じてしまったた事が気になっていました。

「そうですか。肉体関係に近い事は有ったようですね。しかし、強姦と言うのはどうでしょう?分別の有る大人の奥様が、ホテルの部屋までついて行った。しかも以前は不倫関係に有り、会おうと言い出したのも奥様からです。多少強引なところが有ったとしても、はたしてそれが強姦と言えるかどうか。」
「強姦では無く、強姦未遂になるのかも知れませんが、2人きりの密室で証人がいない事を良い事に、事実を隠し通すおつもりですか?訴えるも、訴えないも妻の問題なので、別に私にはどうでも良い事ですが・・・。」

すると弁護士は少し待って欲しいと言い、稲垣を連れて外に行ってしまいました。

「今回の事は、された、していないで水掛け論になってしまう。ただ明白なのは約束を破って2人で会っていたという事です。本来は、奥様の過失も大きいので満額は無理かと思いますが、約束の1千万をお支払い致しますので、それで納得していただけませんか?」
「1千万は当然です。約束を破ったら、妻と合わせて1千万と決めた訳ではない。妻には別に相応の償いをさせます。本当は、お金などどうでもいい。お金よりもこの男を殺したい思いが強いのですが、娘の事を考えると、まだ刺し違える決心がつかない状態です。」
「少し待ってくれ。それは完全に脅迫ですよ。その言葉だけでも犯罪だ。」
「そうですか。それなら私は罪に問われなければならない。どうぞ訴えて下さい。もうどうなってもいい。今後生きていたところで、人生に何の意味も無いかも知れない。」

弁護士は私を責めていたと思えば、今度は宥める様に、

「そう悲観的にならずに、冷静になって下さい。最初に疑う様な発言をしたのは、仕事上色々なケースを念頭に置いて進めなければならないからです。私は、そういう事も有り得ると一般的な話をしただけで、その事でも傷付けてしまったとしたら、私の不徳の致すところです。許して下さい。奥様の件は、私は相談者を擁護する立場に有るので、稲垣さんを信じて、強姦の様な事は無かったとしか言えない。しかし双方の利益を考えれば、示談にするのが好ましいと思います。どうでしょう?」

すると稲垣は弁護士に対して不満を露にし、

「そんな・・・。先生は私の代理人だろ。」
「稲垣さん。あなたは私にも、奥様とは二度と会わないと約束してくれましたよね?その舌の根も乾かない内に、これは何ですか?もしも奥様の方から連絡が有った時は、毅然と断って、トラブルにならない様に、すぐに私に連絡しろと言いませんでしたか?お金の事まで言いたくはないが、私はあなたのお姉さんに頼まれて、お姉さんの同級生というだけで、儲けも考えずに引き受けているのですよ。これ以上まだゴタゴタするのなら、私はこの件から降りる。」

結局、稲垣が私に分割で1千万を支払い、もう妻と会えない様に、次に約束を破った時には5千万を支払うという事に署名させ、それとは別に、稲垣が妻へ解決金として五十万支払う事で決着しました。

本当は強姦が認められずに、逆に名誉毀損で訴えられようとも妻に訴えさせて、もっと稲垣を苦しめたかったのですが、私にもこの事を仕組んだ負い目が有り、妻が法廷で取り乱し、美人局をした事までばれるのを恐れてしまい、一応示談としましたが、示談にした1番の理由は、私の中で急速に力が抜けて行くのを感じていたからです。

そんな中、ただ一つ嬉しかった事は、稲垣が1千万を即金で用意出来ない事でした。
離婚した事も有り、考えていたよりも稲垣の懐事情は厳しいらしく、私に分割を頼み、何度も頭を下げる姿には多少ですが心が癒されました。

2人が帰り、妻が稲垣の愛撫に感じてしまった事で、今後どうするかを考えていると、突然妻が言い難そうに、

「あなた、その五十万は私に頂けませんか?」

妻は、稲垣の奥さんから、慰謝料として百万請求されていたと知りました。
奥さんは、妻が稲垣にずっと騙されていたと思っているので、この様なケジメだけの金額で許してくれたのでしょう。
長年苦しみ、この様な結果になってしまった奥さんの気持ちを考えると、また徐々に怒りで力が漲って行くのを感じます。

「おまえは奥さんにこれだけの事をしておいて、たったの百万で済ませるつもりか?」
「典子さんに償いたいけれど、今の私には百万のお金も有りません。」
「そうだな。2人で溜めたお金は、離婚に成った時に全て放棄すると決めていたので、いつ離婚になっても不思議で無い今、おまえは一切使えない。それにしても情けない女だ。奥さんの一生を駄目にしておきながら、償いはお金でしか出来ない。しかし、そのお金すら無い。奥さんが温情を掛けてくれて、たった百万で許してくれようとしているのに、それすらもまだ五十万足りない。」
「お願いです。五十万貸して下さい。お願いします。」
「そうだな。奥さんに迷惑はかけられない。五十万貸そう。その代わり保証人を付けてくれ。おまえの様な平気で嘘をつける人間に、保証人も無く貸す気にはなれない。」

保証人など頼める相手がいない妻は、声を殺して泣いていました。
話を聞いた時から百万出すつもりでいたのですが、素直には出せません。

「保証人が無理なら、俺が選んだ所で働くか?」
「・・・離婚は・・・はい、働かせて下さい。」
「そうか。それなら探してきてやる。最近は、熟女専門の所も結構有るそうだ。旦那の俺が言うのも変だが、智子は童顔だから化粧の仕方によっては30代前半でも通るかも知れないし、何と言っても色白で乳がでかい。その上、淫乱とくれば人気が出るぞ。おまえの様な平気で嘘をつける女の方が、お客に合わせて色々な人格の女になり切れるだろうから、向いているかも知れない。稲垣に教え込まれたテクニックも有るだろうし、もしかすると、これは天職かも知れないぞ。」
「えっ?仕事というのは・・・。」
「それで良ければ明日、百万おろして振り込んで来い。それと、その汚い陰毛は何とかしろ。よく稲垣は、そんな汚い身体を抱こうとしたな。そのままだとお客が興醒めしてしまう。そうだ、全て剃ってしまえ。その方が、おまえの大人しそうな顔と淫乱な身体とのギャップに、きっと客も喜ぶ。」

こんな事を続けていては、いつか妻が9年前の様に精神的におかしくなってしまいます。
それ以上になってしまうかも知れません。
しかし、妻に対していつまでもこの様な陰湿な事が言える私は、すでに狂っていたのかも知れません。

翌日、妻の作った物を食べる事の出来ない私は1人で食事に出掛け、少し呑んでほろ酔い加減で帰宅すると、娘が寝て静まり返った家のキッチンで、妻は啜り泣いていました。

「どうした?稲垣に会えなくて寂しいのか?」
「明日入金になる様に、あなたがお昼寝をしている間に、典子さんの口座に百万振り込ませて頂きました。」
「そうか。風呂に入るから着替えを持って来い。」

昨日の事を、まさか真に受けてはいないと思っていた私は、そのままバスルームに向かおうとしました。
私がキッチンを出ようとした時、呼び止めるように妻が。

「昨日のお話しですが、お勤め先を探して下さい。」
「なに!?」
「今日1日中考えていたのですが、私だけが罰を受けていない。離婚もされず変わらない生活をしている。辛いと思う時も有るけれど、それは私自身が招いた事で、辛いと思う事自体、私には贅沢な事です。どの様な辛いお仕事でもして、お金だけでも稼いで償って行かなければならない。あなたへの慰謝料も考えると、普通のお仕事ではとても償ってはいけません。」

同情をかう為に、この様な事を言っていると思った私は、

「毛の処理はしたのだろうな?パンティーを下げて、スカートを捲って見せてみろ。」

妻のそこは幼い娘の様に陰りが有りません。
良く見えるように椅子に座らせ、足を大きく開かせると幼い娘のそことは違い、黒ずんだ襞が飛び出している分、凄く卑猥に見えます。
私の物は、妻の浮気を知って以来、初めて首を持ち上げたのですが、妻の顔を見るとまた元に戻ってしまい、黙ってバスルームに行きました。

妻の決心を知り、私は湯船に浸かりながら、何と言ってこの事態を回避するかを考えていました。
嫌がらせにせよ、私から言った事なので止めてくれとは言えません。
しかし、妻をその様な所で働かすつもりは勿論有りません。
無いどころか、そんな事は耐えられません。
結局私は、まだ妻を諦めてはいないのです。
娘の為だけで無く情け無い事に、こんな妻でもまだ愛していると知りました。

ニュースで凶悪犯と行動を共にして、逃げ回っている女を見た時、この女は何を考えているのだと思いましたが、愛は条件では有りません。
愛してしまえば、相手が凶悪犯であろうと、自分を裏切った人間であろうと、愛には関係無いと知りました。
それなら素直に、今の妻を受け止めれば良いのですが、それが私には出来ません。
それが出来ずに苦しんでいます。

その意味では凶悪犯の女よりも、自分を出せない私は駄目な人間なのでしょう。
今回は素直に、あれはただの嫌がらせだと話そうと考えていた時、今の妻は私だけを愛しているのか考えてしまいました。
この様な妻でも私が諦め切れないのと同じで、稲垣に裏切られた妻もまた、今でも稲垣の事を愛している可能性を否定できません。
そう思うと、やはり私は妻に優しくはなれないのです。

「おまえは今まで、俺に逆らわずによく耐えていると思っていた。稲垣を騙した時も素直に従った。だから今回、智子を試した。もう俺を裏切らないのか試した。自分が苦しくなった時でも、俺を裏切らないのか試した。もう俺以外の男には、絶対に抱かれないか試した。しかし、今回お金の事で苦しくなり、俺が少し言っただけで、お金の為に他の男に抱かれると言う。もう俺以外の男とセックスする事は、智子にとって死ぬよりも辛い事だと思っていたが、そうではなかった。」
「では、どうやって償えば良いのですか?あなたに逆らえば償えない。あなたに従おうとしても償えない。私だって知らない男に触れられたくは無いです。好き好んでその様な仕事はしたくない。私はどうすればいいの?」
「知らない男に触られたくない?俺以外の男に触られたくないとは言わないのだな。知っている稲垣なら、触られても良いのだな?それとも、おまえとセックス出来ない俺よりも、稲垣に触られたいのか?だから感じてしまったのか?」
「違います。もう離婚して下さい。私は、どうしたら良いのか分からなくなりました。お願いです。離婚して下さい。一生懸命働いて、少しずつでも慰謝料を払って行きます。」
「やっと本音が出たな。稲垣と一緒になりたいのだろ?最初からそのつもりだったのか?それとも稲垣が離婚したので、一緒になれると思ったのか?そうか、分かったぞ。この間ホテルで俺が行く前に、その事も相談したのか。」
「違います。彼とはもう会いません。あなたに逆らえない。あなたに従っても駄目。別れる事も出来ない。私はどうしたら良いの?もう分からない。」

妻は泣きながら、走って娘の部屋に行ってしまいました。

その日から、妻は変わってしまいました。
私の言った事に逆らわず、要求通りに何でもしてくれるのですが、今までの様に私の機嫌を取ろうとするような言動や行動は無くなり、言われた事を淡々とこなしている感じです。
顔からも喜怒哀楽の表情は消え去り、私への愛も無くなった様に感じました。
愛が無くなった様に感じると言う事は、私は意地を張っていただけで、多少なりとも愛を感じていたという事になります。

幼い娘も、私や妻の異変を感じ取っているのか会話も減り、笑う事も目に見えて少なくなり、このままでは私と妻の関係だけで無く、私と娘、娘と妻の関係さえも壊れてしまいそうです。

今まで思っていた以上に、このままでは駄目だと強く感じた私は、娘の為に離婚しないのではなくて、娘の為に離婚した方が良いのでは無いかと考える様になりましたが、やはり妻への未練が断ち切れません。

何より、妻と稲垣がまた付き合う事が出切る環境には、何が有ってもしたくは無いのです。
色々考えた末に思ったのは、このまま妻とやって行くには、妻を抱けるようになるしか無いという事でした。
口では愛を語れない分、肌で愛を感じ取ってもらおうと思ったのです。
いいえ、本当は私が妻の愛を感じたかったのかも知れません。

「服を脱いで、俺のベッドに来い。」

突然の私の言葉に妻は驚きの表情を浮かべ、その顔は、すぐに泣き顔へと変わり、妻は急いでパンティー一枚だけの姿になると、ベッドに寝ている私に抱き付いてきました。
その様な妻を可愛いと思いましたが、やはりまだ妻の身体に嫌悪感をもっていて、抱き締める事も出来ません。
それどころか手で突っぱねて、引き離したい衝動に駆られてしまいます。
私は、しっかりと目を瞑り、これは妻では無いと考える様にしました。
以前から可愛いと思っていた、近所の奥さんを必死に思い浮かべて、何とか乳房に触れることは出来たのですが、それは愛撫とは程遠く、これでは駄目だと思っていても、これが私の限界でした。

次の日も、また次の日も、毎日妻を誘って試みたのですが、結果は何も変わりません。
有る時は、近所の奥さん。有る時は、我が社のマドンナ的存在の女の子。
また有る時は、妻と同じで胸が大きく魅力的な顔立ちの、数回しか会った事の無い妻の姉まで思い浮かべましたが、やはり何も変わりません。
このままでは一生駄目だと思った私は、ついに賭けに出る事にしました。

稲垣と妻とのセックスを知らない私は、想像ばかりが大きく膨らみ、その事で余計に駄目になっていると思ったのです。
しかしこれは、吉と出れば良いのですが、凶と出た場合、今よりも酷い状態になる事は目に見えています。

「このままでは、いつまで経っても駄目だ。智子も俺とセックスがしたいか?おまえの本心を教えてくれ。」
「あなたに抱かれたい。以前の様に、あなたを私の中に感じたい。」
「それなら協力してくれ。俺の頭の中では智子と奴のセックスが、とんでもなく凄い事をしていた様に、妄想が膨れ上がってしまっている。真実を知れば、少しは良くなるかも知れない。智子は正直に、有りのままを話せる自信が有るか?」

妻もまた、セックスが私と元に戻れる近道だと感じている様で、

「それで抱いてもらえるのなら、それであなたが楽になれるのなら、何でもお話しします。」

本当は1年以上に及ぶセックスを、順序良く全て知りたいのですが、焦っていた私は気になっていた事を続けざまに尋ねました。

「おい、男の性器を何と言う?」

私の突然の質問に、妻は少し躊躇しましたが、

「・・・オチンチン・・・ですか?」
「稲垣は何と呼ばせていた?違う呼び方をさせていたよな?あの日テーブルの上で感じてしまっていた時に、智子は違う言い方をした。何と言わされていた?」
「・・・チンポ。」
「我を忘れてしまっていた時に、自然とその言葉が出たと言う事は、ずっと、毎回の様に言わされていたのだろ?そんな言葉をどの様に仕込まれた?」

妻は、私に全て話す事が、自分に残された最後の方法だと思っている様で、私の質問に対して、その時を思い出しながら、詰まりながらですが詳しく話してくれました。

身体の関係を持ってからしばらくは、稲垣が愛撫をしてから交わるという、比較的ノーマルなセックスが続き、妻を愛撫する時などは、妻の身体を労わる様に優しく扱ってくれたと言います。
妻が逝きたい時に逝かせてくれ、硬い物を欲しくなったら、言えばすぐに入れてもらえました。
しかし、関係を持って2ヶ月を過ぎた頃から、稲垣は徐々に本性を現し始めます。

本来稲垣は、女に奉仕するのではなくて奉仕させるのが好きで、自分の思い通りに支配したかったのです。
これは幼い頃から、母親や姉に押さえつけられて来た事の反動かも知れません。

ある土曜日の午後、稲垣のアパートに行って、いつもの様に掃除をしていると、妻のお尻や胸をじっと目で追いながら、ベッドで横になっていた稲垣が、

「いつまで掃除をしている気だ?もう掃除はいいから、ここに来い。」
「こんな昼間から、駄目です。」
「文句を言うな。智子は私の言う通りにしていればいい。今日から私に逆らう事は許さん。早く来い。」

今まで稲垣は、妻に対して比較的紳士的な態度で接していたので、妻は命令口調で話す稲垣に驚いて立ちつくしていると、稲垣は妻の腕を掴んで引き寄せ、ベッドに押し倒すと上に乗ってキスをして来ました。

「待って、シャワーを使わせて下さい。」

稲垣はそう言う妻の言葉など無視して、妻のブラウスを荒々しく剥ぎ取り、妻は弾け飛ぶボタンを見た時、稲垣の豹変振りが怖くなり、稲垣に従うしか有りませんでした。
稲垣は、逆らえなくなった妻を全裸にすると、自分も急いで服を脱ぎ、全身を舐める様に命じると、自分はじっと寝ているだけで何もしません。
妻は、稲垣の首筋から足の爪先まで、言われるままに舐めさせられ、その間稲垣の硬くなった物を、ずっと握らされていました。

「よし、今度は口に含め。」

命令されながらのこの様な行為は嫌だと思いながらも、口いっぱいに含まされている内に、気持ちとは裏腹に身体は感じて来てしまったそうです。
すると、稲垣はそんな妻の変化を見逃さず、ようやく手を伸ばして、妻の1番感じる小さな突起をそっと触って来たので、触られた妻は、身体が感じてしまっていた為に、その少しの刺激だけでも我慢出来ずに、もう限界で有る事を稲垣に訴え続けました。
しかし、今までなら自由に逝かせてくれた稲垣が、今回は無情にも触るのを止めてしまい、

「口がお留守だぞ。誰が止めて良いと言った?」

それを聞いた妻が、夢中で硬くそそり立っている物に口や舌を使うと、稲垣はまた触ってくれるのですが、頂上に登り詰める寸前になると止められてしまいます。

「どうして?お願い・・・もうお願い・・・。」
「また口がお留守だぞ。口を離したら、もう止めてしまうぞ。」

妻は、何とか逝かせてもらおうと、また口に含むと今度は激しく頭を上下させたのですが、それでも直前で止められてしまいます。
口に含んでいても逝かせてもらえず、口での行為を中断して、その事を訴えようとすれば怒られ、妻はどうしたら思いを遂げられるのか分からずに、気も狂わんばかりの状態でした。

「智子は一人気持ち良くなるつもりか?私を気持ち良くしようとは思わないのか?」

そう言ってから稲垣が、上に跨って硬い物を自ら納めるように指示すると、その様な恥ずかしい行為が出来るはずは無いと思っていた妻は、躊躇する事も無く急いで跨り、稲垣の物を中に納めると、自ら腰を使い出してしまいました。

妻は、少し動いただけで気を遣ってしまい、稲垣の胸に崩れ落ちてしまったのですが、今度は稲垣に下から腰を使われ。

「動かないで。感じ過ぎてしまう。少し待って下さい。」

そう言って稲垣の責めから逃れようとするのですが、しっからと抱き締められている為に逃れる事が出来ず、また徐々に妻の息遣いは荒くなり、腰も稲垣の腰の動きに合わせるかの様に動き出してしまうのですが、稲垣はその瞬間が来ると動くのを止めてしまいます。

「私を気持ち良くしろと言ったのに、また智子は一人で逝くつもりか?」

そう言われても妻は快感を途中で止められる事が耐えられずに、しっかりと抱き締められていて自由にならない腰を、何とか動かそうと必死に稲垣の腕の中でもがいていました。

「仕方の無い奴だ。逝かせてやるから、私の何を智子の何処に入れられているか言ってみろ。」

もう妻には恥ずかしいなどと言っている余裕は無く、私とのセックスで言わされていた言葉を、大きな声で叫んでいました。
しかし稲垣の目的は、妻を自分だけに従う従順な女に調教する事です。
その為には、セックスをしている間だけでも、妻の中から私の存在を、全て消し去らなければなりません。

「違う。オチンチンなどと、子供のような言い方をするな。これはチンポだ。それにオマンコでは無くてオメコだ。逝きたければ、硬いチンポを、智子の厭らしいオメコに入れられていますと言ってみろ。」

稲垣のビデオで覚えたかのような言葉に、妻は逆らう事も無く、言われた言葉をはっきりと口にしていました。

「よし、今度からもそう言うのだぞ。忘れるな。」

稲垣は、妻を抱き締めていた手を離すと乳房を掴み、上に押して座らせると、

「腰を前後に使え。上手いぞ。今度は上下に。そうだ、でもまだ逝くなよ。私ももうすぐ出そうだ。よし逝ってもいいぞ。硬いチンポ気持ちいい。智子のオメコ逝きますと言いながら思い切り逝け。」

妻は、稲垣に言われた2つの言葉を、何度も何度も言いながら崩れ落ち、稲垣の熱い物を奥深くに注ぎ込まれました。

この日を境に2人のセックスは変わり、妻は稲垣の要求を何でも受け入れる、稲垣の従順な奴隷となってしまい、ホテルに行ってマッサージ用の大きなバイブで、気も狂わんばかりに責め続けられて失禁してしまった話。

卑猥な下着で稲垣一人の為の、ファッションショーをさせられていた話。

アパートでは、その様な下着と小さなエプロンしか身に着けることを許されず、その様な格好のまま掃除や洗濯、食事の用意をさせられ、稲垣がしたくなった時にはいつでも受け入れる事を義務付けられ、下着を着けたまま、大事な部分に開いた穴から入れられていた話。

最初は嫌なだけだった剃毛も、次第に剃られながら、濡らしてしまう様になってしまった話。

ローターを入れられたまま食事に連れて行かれ、我慢出来なくなった妻が稲垣にお願いして、店のトイレで逝かせてもらった話などを聞いて、私の賭けは失敗に終わり、妻に対する嫌悪感は更に大きくなってしまいました。

私は自らの賭けに敗れ、追い詰められていました。

妻の作った物を食べる事も出来ず、これで完全に妻を抱く事も出来なくなった私は、妻の幸せも考える様になり、離婚と言う文字が頭から離れません。
その様な時、私の気持ちを後押しするかのように、上司に呼び止められ、

「君に行ってもらった例の現場で、不都合が生じたらしい。勿論我が社のミスでは無く、違う業者が請け負った箇所らしいのだが、その部分を修理しようと思うと、我が社の請け負った箇所にも影響が出て来るそうだ。先方は修理期間短縮の為に、慣れている君に来て欲しいと言っているが、私は他の社員を行かせようと決めた。急な事で、出発まであと4日しかないが、大体の段取りなどを君が説明してやってくれ。」
「私に行かせて下さい。」

言ってしまってから自分でも驚きましたが、これは妻との別れを決意した言葉でした。

「そうしてくれると、会社としては助かるが・・・。いや、それは駄目だ。」
「いいえ、私に行かせて下さい。行きたいのです。」
「俺が要らぬ事を言ったから・・・。駄目だ。君は行かせられない。」

しかし、上司は、私の真剣で訴えるような目を見て、

「そうか。それなら頼む。今回は修理だけだから半年もあれば帰れる。何か不都合が出てそれ以上掛かる様なら、必ず代わりの人間を行かせる。・・・すまんな。」

一度は決心したものの妻には言い出せずに、日本を発つ前日になってしまいました。

「今日は会社に行かなくても宜しいのですか?」
「ああ、またこの前の国に行く事になった。明日の朝早くに、別の業者と空港で待ち合わせている。今からその準備をするから、智子も手伝ってくれるか?」
「今度も長いのですか?」
「それを聞いてどうする?もうおまえには・・・いや、やめておこう。悪かった。」

私の悲壮な表情や言葉から全てを悟った妻は、泣きながら当座の下着などを揃えてくれました。
その夜、妻の欄には既に署名捺印して有る離婚届に、私も署名捺印し、

「これが2人にとって1番良い方法だと思う。慰謝料もいらないし、帰ってから財産分与もきちんとする。理香の事だが、親権は智子でいいが、帰って来てからは、俺が会いたい時には自由に会わせろ。出来れば土日は一緒にいたい。詳しい取り決めは俺が帰って来てから、また相談しよう。」
「ごめんなさい。全て私が、、、ごめんなさい。」
「いや、そんな事はもうどうでもいい。智子も自分の将来の事をよく考えて、頑張って幸せになれ。」
「ごめんなさい。私の作った物を食べないのは、私に対する嫌がらせでは無くて、身体が受け付けてくれない事も知っていました。何とか少しでも私を許してくれようと、汚れてしまった私の身体を、抱いてくれようと努力していてくれた事も知っていました。別れたく無いけれど、これ以上あなたを苦しめ続ける事は出来ないし、私からは離婚について何も言える権利は有りません。」
「俺だけで無く、この方が理香にとってもいい。勿論、智子の為にも・・・。」
「長い間ありがとう。私には、もう幸せになる権利なんて無いけれど、あなたには必ず幸せになってもらいたい。本当に今までありがとう。ありがとう。」

今までに見た事も無い様な、寂しそうに涙を流す妻を見ていると、私も涙を堪え切れませんでした。

「俺は明日早いので、親父とお袋には電話で話しておくから、証人の欄には親父とお袋に署名してもらって、智子が出しておいてくれ。これで智子も自由だから、この家を出たら・・・。」

稲垣の所に行くのかとは、流石に辛くて聞けませんでした。

私は、毎晩のように浴びるほど酒を呑み、休日の朝は、必ず違った女が横で寝ているという生活を送っていました。
ここは都市部ではなく、それほど大きくは無い街でしたが、それでも、その様な女性をおいている怪しげな店は三軒ほど有ったので、女の調達には困りません。
この国の女性は情熱的で腰の動きも激しく、一緒にいる間だけは、稲垣と暮らしているはずの妻の事を忘れさせてくれます。

しかし部屋に1人でいると、いくら酒を呑んでも稲垣の上で同じ様に、腰を激しく使っている妻の姿が浮かんでしまい、一人涙を流す日も少なく有りませんでした。
その様な事を繰り返していて一ケ月が過ぎた頃、私の下で働いていた現地の人間に、夜になると離婚した女性や未亡人が集まって来て、客を誘っている場所が有ると聞き、店の様に若い娘はいないが、料金も安くてサービスも断然良いと言うので行ってみると、そこには肉感的な身体の線を強調した服を着た何人もの女性がいて、中には小さな水着だけを身に着けただけの女性もいます。

私は、その中から、真っ赤なパンティーが透けて見える、身体に張り付いた白いミニのワンピースを着た女性と、身振り手振りで交渉してホテルに行くと、部屋に入るなり、いきなり私のズボンとパンツを下げて口に含み、その後も朝まで私の物を離す事は有りませんでした。

その後は、ずっと彼女達のお世話に成っていましたが、話しに聞いた通り、彼女達のサービスは凄く、私が出した後もすぐに口に含まれ、回復すると自ら跨り腰を激しく使われて、朝まで寝かせてはもらえません。

彼女達は、後ろ盾も無く、自分で客を拾えなければ生活出来ないので、また誘ってもらえる様に、必死にサービスしていたのだと思います。

私は、一時でも妻を忘れたくて、そんな彼女達に溺れていき、週末だけだった女遊びも週に2日となり、3日となった頃、化粧だけは皆と同じ様に濃いのですが、彼女達の一歩後ろにいて、目が合うと俯いてしまう普通の格好をした、妻の様な優しい目をした女性が気になり、彼女達を掻き分けて誘ってみると、その時は嬉しそうな顔をしたのですが、ホテルに入るとまた俯いてしまい、彼女達の様に自分から服を脱ごうともしません。

しかし、いざ始まってしまうと、何かを忘れたいかのように積極的に私を求め続け、喘ぎ声も大きくて凄い乱れ様でした。

私は、毎回そんな彼女を誘うようになり、何度か一緒に朝を迎えている内に分かった事は、彼女は30歳で私と会う一ケ月前に夫を病気で亡くし、小さな子供が2人と病弱な母親がいる為に生活に困り、あの場所に立つ様に成ったのですが、まだ恥ずかしくて消極的だった為にお客がつかず、私が初めての客であった事です。

私は、毎日の様に彼女を誘い、終には彼女の家に転がり込んで生活する様になってしまい、薄い壁一枚隔てた隣に子供達や母親がいる事もお構い無しに、毎晩の様に妻を忘れさせてもらっていました。

その頃には、その事で、一緒に働く現地の人間に後ろ指を指されるようになっていましたが、仕事はきちんとこなしていたので、妻を失って自棄になっていた私には、何を言われようとも気になりません。

その様な生活をしていて半年が過ぎ、ようやく修理も終ったのですが、私は会社を辞めて、このままこの国に残ろうかと真剣に考えていました。
日本に帰ったところで、何も良い事は有りません。
妻と稲垣が、仲良く暮らす側で生きて行くのが辛いのです。

しかし娘の事は気になり、娘の近くで暮らしたい感情の方が勝り、一緒に暮らしていた彼女には、この国では大金と言える額のお金を渡して、帰国する事を告げました。
ところが、お金の為だけに私に尽くしてくれていると思っていた彼女が、私と別れたく無いと言って抱き付いて来て泣き叫び、私を必死に止める姿を見た時は日本に連れ帰り、一緒に暮らそうかとも思いましたが、彼女には病弱な母親を残して行く事は出来ません。

そう言うと聞こえは良いのですが、仮に母親の事が無かったとしても、情は有っても、彼女に対しての愛情は、そこまで無かったのかも知れません。
彼女にしても、心細さから誰かに頼りたかっただけで、私を愛していた訳では無かったと思います。
しかし別れは辛く、後ろ髪を引かれる思いで帰国し、真っ先に娘に会いたかったのですが、私には居場所が分かりません。

妻の携帯に電話しても、解約されているらしく繋がらず、私の実家には何処に住んでいるのか必ず連絡を入れておく約束だったのですが、その約束も守られている自信は有りません。

しかし、今のところ他に方法も思いつかず、あまり期待もせずに実家に顔を出すと、そこには新しいピアノが置いて有りました。

「このピアノは?」
「ああ、お友達が始めたらしくて、どうしても理香ちゃんが習いたいと言うものだから、お爺さんが買ってあげた物だよ。お爺さんは理香ちゃんに甘いから。」

そう言う母も、父に負けないぐらい娘には甘いのです。

「理香はここにいるのか?智子は理香をおいて出て行ったのか?」

私はてっきり、自分達が楽しむ為には娘が邪魔な稲垣に言われ、他に行く所の無い妻は仕方なく、娘をおいて出て行ったと思いました。

「何を言っているんだい。智子さんもお前の家を出てから、ずっとここに住んでいるよ。」
「ここに住んでいる?どうして?智子は出て行く約束だったのに。」
「だから約束通り、おまえの家は出たじゃないか。その後何処に住もうと智子さんの自由だろ?」
「でも可笑しいだろ?俺と智子は離婚したのだぞ。その智子が俺の実家に住んで居たのでは、どう考えても変だろ。」
「離婚?おまえ達はもうしているのかね?証人を2人書く欄が埋まらなくて困っていたから、勝手に決めずに、おまえが帰ってから誰にするか話し合えと言っておいたから、離婚届はまだ出さずに持っていると思うよ。」
「証人は親父とお袋に頼んだはずだ。書いてくれなかったのか?」
「ああ、いざ書こうと思ったら気が変わった。あんな縁起の悪い物に名前を書いたら、良い死に方も出来無い様な気がして、私もお爺さんも断った。」

私は母の意図を測りかねました。

「理香と智子は今何処にいる?」
「時差ボケかい?時計を見てごらんよ。理香ちゃんは学校に決まっているだろ。智子さんは、お爺さんの友達がやっている部品工場で働いているよ。おまえも知っているだろ?ほら隣町の。車で通っているから5時過ぎには帰ってくるけれど、おまえとゆっくり話している時間は無いと思うよ。その後、6時からコンビニの仕事が待っているから。」
「部品工場の後、コンビニ?」
「ああ。部品工場だけにしておけと言ったのだが、どうしても働きたいからと言うもので、何か有った時に無理が言える様に、おまえの同級生がやっているコンビニを、私が紹介してやったのさ。ほら、おまえが中学の時仲の良かった・・・。5時に起きて私達や理香ちゃんの朝食の仕度や洗濯をしてくれる。8時までには工場へ行って5時過ぎに帰り、6時までにコンビニへ行って夜中の12時まで働いて、帰って来てから夕食を食べて、その後片付けをしてお風呂に入るから、寝るのはいつも1時半を過ぎている。理香ちゃんの学校の用意で2時を過ぎる事も有る。土曜日も休みでは無いから、ゆっくりと出来るのは日曜だけ。ゆっくり出切ると言っても夕方からは、またコンビニに行くから、たまにはゆっくりと寝坊でもすればいいのに、普段理香ちゃんに構ってやれないからと言って、早く起きてずっと理香ちゃんと一緒にいる。このままだと身体を壊すからと言っても聞かない。」
「どうして、そんな無理な事を?」
「おまえと相手の奥さんに慰謝料を払いたいそうだ。相手の奥さんには良いとして、おまえに慰謝料だなんて・・・。第一おまえは、まだ離婚したいと思っているのかい?」

私が日本を離れてから、妻と母の間にどの様な会話が有ったのかは分かりません。
生半可な覚悟でここまでは出来ないと思うので、妻の努力は認めます。
しかし、その事と私達の離婚の話は別で、私には上手くやって行く自信が有りません。

母は私達の離婚を止めさせたい様でした。
最初は、可愛い孫を失いたくない想いからだと思っていましたが、それだけでは無いようです。

「どうしても離婚したいのかい?理香ちゃんの為に、おまえは己を捨てる事も出来ないのか?」

皮肉なもので、以前妻から聞いた稲垣の鮭の話を思い出しました。
鮭の様に、命を捨ててでも子孫の為に激流を傷付きながら上る。
私にも娘の為に、命を捨てる覚悟は有ります。
しかし、私と妻が我慢をして一緒にいる事が、必ずしも娘の為に良いとは思えませんでした。

「これは俺だけの為では無い。智子の為、理香の為にもその方が良いと思った。」
「本当にそうかな?智子さんから全て聞いたが、おまえが智子さんを許せないだけでは無いのかい?智子さんは一時、2人の男を愛してしまった。いくつになっても、結婚していて例え伴侶がいたにしても、誰にでも他に恋心を持ってしまう事は有るし、その気持ちまでは縛れない。しかし、そうかと言って行動に移してしまった事は、確かに許せる行為ではない。でも、一度失敗をしてしまった者は、どんなに努力をしても許されないのだろうか?どんなに反省しても、もう許されないのだろうか?それは、おまえが決める事だが、おまえは、おまえだけを愛している智子さんが好きだったのか?それとも、智子さんそのものが好きだったのか?智子さんにおまえ以外にも好きな人がいると、もしも結婚前に分かっていたとしたら諦めていたか?智子さんに対する愛情もそれで冷めていたか?その程度の想いだったのか?それとも、それでも良いから、何が何でも智子さんを自分のものにしたいと思っただろうか?」

母の言う事も分かるのですが、身体が拒否している今、何を言われても無理なものは無理なのです。

「相手がどう思っていようと、俺は愛しているでは駄目なのか?智子さんと話していて、支店長の事も愛したかも知れないが、今は、おまえだけを愛している様に私は感じる。凄く強い愛を感じる。反省した智子さんを、今の智子さんを見られないのか?」
「お袋の言いたい事は分かる気もするが、これは裏切られた人間で無いと分からない。お袋と親父のように、愛し愛されてやってきた人間には分からない。」
「そうかい。これは一生おまえ達には言わずに、お墓の中まで持って行こうと思っていたが、昔私もお爺さんに裏切られた事が有る。」

母の告白はショックでした。
私は、物心がついてからずっと、我が家はかかあ殿下で父はいつも母の後ろで笑っている、大人しい人間だと思っていました。
父は酒も呑めず、タバコも吸わない真面目で大人しい人間だと思っていました。

ところが信じられない事に、昔は大酒呑みでヘビースモーカー。
何か気に食わないことが有れば母に手を上げ、外でもすぐに他人を殴るような、荒くれ者だったそうです。
その上、絶えず女の影が有り、その事を言えば暴れるので、母はいつも泣き寝入りでした。
母の話しに、私は動揺を隠し切れませんでしたが、

「・・・でもそれは・・・智子の浮気とは・・・。」
「まさか、男の浮気は甲斐性で、女の浮気は裏切りだなんて言わないだろうね?」
「そんな事は言わないけれど・・・・・・・・・・。いつから親父はあの様に変わった?」

私は母の話しに、固唾を飲んで聞き入っていました。

母は、ずっと父の浮気には目を瞑っていましたが、ある時、どうしても許すことの出来ない浮気を知り、気が付くと私を背負い、兄の手を引いて橋の上に立っていたそうです。
そのまま川に飛び込もうとした時、兄が泣き出し躊躇していると、私達を探し回っていた父が見つけて駆け寄り、

「俺が悪かった。死なないでくれ。おまえ達を死なせる訳にはいかない。おまえ達が死ぬぐらいなら俺が死ぬ。」

そう言うが早いか、川に飛び込んでしまいました。

幸い死に切れずに何とか岸へ泳ぎ着いたのですが、父はその日を境に一滴も酒を呑まなくなり、タバコも完全にやめて、ずっと母には気を使って来たそうです。
父は、酒とタバコを止める事で母に対して、改心した自分を分かって欲しかったのだと思います。

「お袋は、よく忘れる事が出来たな。どうやったら忘れる事が出来た?」
「忘れる事なんて出来ないさ。最初の頃は何とか忘れようとしたけれど、努力しても忘れられるものでも無いし、忘れようとする事をやめたら、逆に気が楽になったよ。今でもたまに相手にも会うし、未だにその頃の事を夢に見る事も有る。」
「今でも相手に会う?」
「ああ、ここまで話したから全て話してしまうが、相手は妹の良子だよ。他の浮気は我慢出来ても、この浮気だけは許せなかった。」
「えっ、良子叔母さん?」

私は母の辛さを知りました。
私の数倍は辛かったと思います。
もしも妻の相手が私の兄だったなら、私はどうなっていたか分かりません。

「教えてくれ。どうやって2人を許した?」
「おまえには偉そうな事を言ったが、まだ許してはいないのかも知れない。ただ、それはあの頃のあの人を許していないだけで、今のお爺さんは遠に許している。あの頃とは違う人だと思っている。」
「お袋は幸せか?」
「ああ、幸せだね。死ななくて良かった、あの時別れなくて良かったと心底思っている。あの頃のお爺さんは今でも嫌いだけれど、その後のお爺さんは大好きさ。息子の前で惚気るのも嫌だが、川に飛び込んだ後のお爺さんを愛している。」

私は、母の車を借りてコンビニへ行き、同級生に無理を言って妻を解雇してもらい、実家に戻ると娘は、ピアノのレッスンに、釣りから帰った父が連れて行ってくれていて、暫らくすると妻が帰って来ました。

「あなた・・・。」

私の顔を見るなり、妻の目には涙が溜まり、

「お帰りなさい、ご苦労様でした。・・・いつ戻られたのですか?」

そう言い終ると、溢れた涙が頬を伝っていました。

「今日帰って来た。2人だけで話が有るから家に帰ろう。」

娘の事は母に頼み、妻と2人で家に帰ると向かい合って座りました。
妻を見ていると、稲垣の所には行かずに頑張って来た、袖口が油で汚れた色褪せたTシャツを着て、終始俯いている妻を愛おしく感じます。

「頑張っていたそうだな。いくら溜まった?」
「お義父さんやお義母さんはいらないと言って下さったけれど、少しですが生活費も払わせてもらっていたので、まだ百万ぐらいしか溜まっていません。あなたに借りた五十万を返すと、残り五十万しか有りません。車を勝手に借りていたけれど、あなたが帰って来たから返さないと。工場やコンビニに行くのに車がいるから、五十万で車を買うと・・・・・・・。」
「奥さんに慰謝料をいくら払うつもりでいる?」
「お金では償えないけれど、百万では余りにも少ないから、あと二百万受け取ってもらおうと思います。」
「貯金の半分は智子の物だから、それを使えば良かったのに。」
「それは、全て放棄するという約束だったから。」
「2人に借金が有っては大変だから、明日二百万下ろして振り込んで来い。後は俺に一億と二百万払え。」
「ありがとう。でもあなたへの一億はこのままではとても払えません。でも、頑張って払えるだけ払って行きますから、それで許して下さい。」
「いや、全額払ってもらう。一億と二百万払ってもらう。」
「ごめんなさい。それは無理です。」
「いや必ず払ってもらう。ずっと俺と一緒にいて、俺に尽くせ。一年二百万で雇ってやるから、今から51年間、俺の側にいて尽くせ。その前に俺が死んでも、おまえは必ずあと51年生きて、俺に尽くせ。絶対に俺よりも先に死ぬな。その為にも、もう無理をせずに体を大事にしろ。それまで離婚届は預かっておく。」

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