Home > 不倫・浮気 > 突然の海外赴任3

突然の海外赴任3

突然の海外赴任2続き

服を着てから化粧を直し、稲垣の車で結構遠く離れた場所のファミレスに行き、向かい合って食事をしたのですが、身体の隅々はおろか中までも見られ、その上何度も気を遣る姿まで見られた妻は、恥ずかしさから稲垣の顔をまともに見る事が出来ずに、食事も喉を通りません。

「食べておかないと、朝まで身体がもたないぞ。」
「えっ・・・・・・・。もう充分です。ありがとう御座いました。」
「いや、念には念を入れておこう。本当は何日か関係を持った方が効果も大きいらしいが、今までの私と智子の良い関係が壊れてしまっては嫌だから、今日限りにしておきたい。仕事で疲れている上に智子が激しいから、つい私も激しく動いてしまい体力の限界なのだが、ここまでしてしまったら、どうしても子供を授かって欲しい。子供を授かってもらわないと、私達の気持ちは違っても、ただの浮気と同じになってしまう。私も眠りたいのを我慢して頑張るのだから、智子も発情期に入れるように、何もかも忘れてより感じる様に努力して欲しい。」

稲垣は単に、関係がずるずると長引いて私や奥さんにばれるのを恐れ、この機会に出来るだけ妻の身体を楽しもうと思っただけなのでしょうが、やはり、妻には稲垣の真意が見抜けずに、また感謝の言葉を言いながら、稲垣に肩を抱かれて車に乗り込みました。

稲垣の運転する車は、マンションには向かわずに逆の方向に走って行きます。

「何処に行くのですか?」
「ああ、ラブホテルに行こうと思っている。私はその様な所に行った事が無いので、恥ずかしくて気が進まないのだが、その様な所の方が現実から離れる事が出来て良いかも知れない。正直に言うと、口でして貰っていた時も、智子では無くて、必死に妻だと思う様にしていた。その後も顔が見えない様に後ろからしていたので、これは智子ではなくて妻だと自分に何度も言い聞かせ、どうにか最後まで維持する事が出来たが、そうそう上手くいかない気がする。相手が智子だと意識すると罪悪感も有るし、それ以上に大切な人を壊してしまう様な気がして、智子には治療だと思えと偉そうな事を言っていたのに、私には無理な様な気がする。どう考えても智子とラブホテルはイメージが結び付かないから、そこなら智子を違った女性だと思う事が出来るかも知れない。」
「そんなにまでして私の為に。」

行為を始める前から硬くしていたくせに、この様な事をよく平気で言えるものだと思いましたが、それが妻には分かりません。
それに、奥さんに知られるのが嫌で、洗い流せば痕跡が残らないバスルーム以外での行為を避け、最初から、本格的な行為はラブホテルに行ってしようと計画していたと思うのですが、妻は疑いもせずにまた感謝の言葉を言っています。

ラブホテルには行った事が無いと言っておきながら、妻を乗せた車は道に迷う事無く、細い裏道を抜けて、知人に会う可能性の無い、ワンルームワンガレージのラブホテルに入って行きました。

部屋に入ると稲垣は椅子に座って、妻をベッドの上に立たせ、

「そこで私を誘う様に、いやらしく1枚ずつ脱いでいってくれないか?」
「そんな事出来ません。恥ずかしいです。稲垣さんが脱がせて下さい。」
「私だって、智子にその様な真似はさせたくは無いさ。でも、車の中で言ったように、今は君を智子だとは思いたくない。智子だと意識すれば、私の物は役に立てないかも知れない。だから街で拾った娼婦だと思いたい。」

ただ妻に嫌らしい行為をさせたいだけで、既に硬くしている事も知らずに、言われた通り別人になり切れば、稲垣の罪悪感を少しでも和らげる事が出切るかも知れないと思った妻は、舞台に上がったストリッパーの様に、一段高いベッドの上で、ゆっくりと1枚ずつ脱いでいきます。

しかし、上と下の恥ずかしい部分を隠す布を身に着けただけの姿になった時、ここまでは頑張れた妻も、自分だけきちんと服を着ている稲垣にじっと見られていては、自分だけが全てを晒す事は恥ずかしくて耐えられず、手が止まってしまいました。

妻の気持ちを察した稲垣は、立ち上がると服を脱ぎだしたので、妻も上だけはなんとか外したのですが、やはり最後の1枚は脱げません。
稲垣を見ると、全裸になってまた椅子に座っていたそうですが、中心で硬くそそり立った物が目に入り、顔を背けてしまうと、

「横を向かないでよく見ろ。今は智子ではなくて娼婦だ。智子がなり切ってくれないと私も駄目になる。娼婦はこれを見たぐらいでは恥ずかしがらない。これから目を離さずに、私に全て見える様に、パンティーを脱いで大きく足を開いて欲しい。」

妻は、稲垣の硬い物をじっと見詰めながら、ゆっくりとパンティーを脱ぎ、手で隠してはいましたが、徐々に足を開いていきました。

「手を退けろ。よし、今度は立膝になって、自分でそこを開いて中をよく見せてくれ。」

こんな普通では考えられない行為でも、自分の為に無理をして付き合ってくれていると思うと、従ってしまったと妻は言いましたが、私はそうでは無い様な気がします。
ラブホテルという異質な空間で、普段では有り得ないような行為を要求されている内に、妻は淫靡な世界に迷い込み、自分とは全く違った人間、それこそ娼婦になっていたのかも知れません。
稲垣の硬くそそり立った物を、じっと見詰めさせられている内に、頭の中はその事だけでいっぱいに成っていたのかも知れません。
どうしてこの様な事をしているかなどと言う、最初の目的など忘れてしまい、

「両手ではなく、片手で開けないか?出来るじゃないか。それなら開いたまま、空いた手を後ろに着いて、お尻を持ち上げて前に突き出せ。そうだ、よく見えるぞ。中まで丸見えだ。」

稲垣は椅子から立ち上がると妻に近付き、中を覗き込むようにして見ていましたが、妻がベッドに背中から崩れ落ちると自分もベッドに上がり、妻の身体の裏も表も足の指さえまでも全身に舌を這わせ、最後は妻が一番感じる小さな突起を集中して責めた為に、妻は稲垣の挿入を待たずに一人、気を遣ってしまいました。

しかし、稲垣は妻に休む事を許さず、すぐに妻の上に乗って来て繋がると、ゆっくりと動きながら、妻の顔をじっと見て、感じて行く時の表情を楽しんでいたのですが、達したばかりで身体が敏感になっていた妻は、そのゆっくりとした動きだけで、また気を遣ってしまったそうです。

「少し休ませて下さい。お願いします。」
「ああ、智子は休んでいていい。私が勝手に動くから。」
「それでは休めません。動かれていては・・・・・・いや・・・いや・・・・また駄目になる。また・・また・・止めて、駄目になってしまう・・・また・・・・いや。」

その後も稲垣の責めは続き、妻は面白いほど気を遣り続けて、最後には放心状態になってしまい、ようやく稲垣も放出して終りました。

「この時もコンドームは着けずにしていたのか?」
「いいえ、ホテルでは着けてくれていた様です。」
「話がおかしいだろ。」
「私も帰る車の中でその事を聞いたのですが、効果が少なくなるだけで全く無い訳では無いから、付けた方が直接触れ合わない分、罪悪感が少なかったと言われました。私の中に出してしまうのは、私を汚してしまう様で、やはり嫌だったと。」

他の男の精子を身体で感じろと言っておきながら、今度は避妊具を装着しても、妻にはその矛盾が分からないのです。
ただ妊娠を心配していただけだと、誰にでも分かる事を、この様な説明で納得してしまうのです。
妻は、それほど、全面的に稲垣を信用し切っていたようです。
冷静な者が聞けば、稲垣の言っている事は最初から矛盾だらけなのに。

私は、娘がどの様にして出来たのか知りたいから、セックスの様子を教えてくれと言い、ここまで聞き出しました。
これで娘がバスルームでの行為によって出来たと分かった訳ですから、本当ならこの先は聞かなくても良い事になります。
しかし、私の知りたい欲求は収まる事はなく、私の知らない妻が存在する事を許せません。

「朝までと言う事は、それでも終らなかったのだな?」

幸い妻は、私が何を知りたかったか等という事は忘れてしまっている様子で、

「はい。」

何度も達してしまい、意識が朦朧としていた妻が息苦しさを感じると、裸の稲垣が上に乗って乳首に吸い付いていたので、

「もう出来ません。もう身体が動きません。」
「いいのか?智子はそれでいいのか?赤ちゃんが少しでも出来易くする為なのに、ここで止めてしまってもいいのか?」

そう言われた妻は気力を振り絞り、稲垣の欲望を身体で受け止め続けたのですが、夜が明ける頃には、流石に精も根も尽き果ててしまい、稲垣によって大きく開かされた足を閉じようともせずに、恥ずかしい部分を隠す事も無く、ぐったりと大の字になっていました。

しかし稲垣はそれでも許さず、開かれた足の間に座って、襞を摘んで大きく開いて覗き込んだり、指を入れて中の感触を楽しんだり、包皮を剥いて完全に露出させたクリを虐めたりして妻の身体を弄んでいましたが、妻の身体はたまに小さく反応するだけで声を出す事も無く、ぐったりとしていたので、

「よし、次で最後にしておこう。」

そう言うと妻の中に入って延々と一方的に動き続け、虚ろな目で天井を見詰め、微かに反応するだけの妻を見ながら放出し、長かった一夜はようやく終りました。

妻の話を聞き終わり、少し冷静になった時に思ったのが、やはりこの話は本当なのかと言う事でした。
妻の話し方からは真実を話している様に感じ、話にのめり込んで聞いていましたが、いくら普通では無い精神状態だったとは言え、この様な嘘に意とも簡単に、本当に妻は騙されたのかと言う事です。

元々稲垣の騙す様な行為など無かった場合、私と言い争いになり、ただ自棄に成っていて抱かれたのでは無いのか?
稲垣の事が好きで抱かれたかっただけでは無いのか?
ただ稲垣とセックスがしたかっただけではないのか?
もっと悪く考えれば、最初から稲垣の子供が欲しくて関係を持ったのではないのかとも思えて来ます。
次に稲垣の騙す様な行為が有った場合ですが、本当に私の子供が欲しくて、こんな事を信じだのか?

自分への言い訳に、最初から嘘だと知りながら抱かれたのでは無いのか?
最初は信じていたとしても、途中からは嘘だと気付きながら快感に負け、欲望に流されたのでは無いのか?

しかし、この様な嘘に騙された事が本当だとすると、稲垣は妻にとって想像以上に大きな存在だという事になります。
宗教的なものには結構多く有り、教祖に騙されて身体を奪われた女性も少なく無いと聞きます。
私が聞いたもっと悲惨な例では、医者にかかる事は良く無いと言われ、病気の子供を医者に診せずに死なせてしまったと言う事が有りました。
しかし、もっと悪いのは、その後も騙された事に気が付かない事です。

教祖に抱いて頂いたから、私は特別な人間に成ったとか、医者にかかっていたら、もっと痛みを伴って死んでいたと聞かされ、子供を亡くしていても尚、その事を信じている事です。

稲垣に今でも特別な感情を持っていると思われる妻も、それに近いものが有るのではないかと思えるのです。
この話が本当だとすると稲垣の体力、精力は、私には信じられないものでした。
いくら9年前で今よりは若かったと言っても40歳は過ぎています。

おそらく稲垣は以前からずっと、妻を抱きたい、征服したいと思っていて、やっと願いが叶った為に出来た所業ではないかと思います。
あの可愛い娘が実の子供ではないだけでも、死にたいほどのショックなのですが、この様に妻を騙して出来た子供かと思うと、尚更娘が不憫でなりません。
それ以上に、妻がその様には思っていない事が悔しくて仕方が無いのです。

妻の話を聞いて、悔しさで泣きたくなっていた時、急にドアがノックされたので、稲垣夫婦が来ていた事をすっかり忘れてしまっていた私は、一瞬ドキッとしました。
ドアを開けると奥さんがいて、その後ろには稲垣が隠れる様に立っています。

奥さんは何か言っているのか口が動いているのですが、私の耳には何も聞こえません。
私は奥さんを押し退けて、稲垣の前まで行くと思い切り殴りつけ、よろけて尻餅をついた稲垣に、馬乗りになって殴ろうとした時、横から奥さんが稲垣の上半身に覆い被さって庇いました。
仕方なく私は稲垣から降りましたが、この時の私は鬼の様な形相をしていたと思います。

「今日はもう帰ってくれ。」

娘の事を言おうかとも思いましたが、稲垣を庇う奥さんを見ていて、何れは分かる事でも、今奥さんをこれ以上悲しませる事は出来ないと思ってしまい、何も言わずに逃げる様にキッチンに行きました。

静まり返った中、車のエンジン音だけが聞こえます。
やがてその音も遠退き、私はどうしてセックスの事まで、詳しく知りたいのか考えていました。
それを聞いても当然興奮などは有りません。
それどころか、聞けば聞くほど怒りを覚え、悔しさが大きくなって行きます。
それなのに全てを知りたい。
私の知らない妻が存在する事を許せない。
ほぼ離婚する事になると思っていても、知りたい欲望は消えない。
離婚するのなら、ただの『酷い女』で良い筈です。
私を裏切った『酷い女』だから別れる、それだけで良い筈です。

本当は離婚をまだ、ためらっているのかも知れません。
知りたいと言う事は、まだ妻に対しての未練が残っているのでしょう。
いいえ、未練以上に、私はもっと小さな男で、私と別れた妻が稲垣と再婚し、娘と親子3人幸せに暮らすのが、許せない感情の方が強いのかも知れません。
正直なところ、自分でも自分の気持ちがよく分からない状態です。

しばらくその様な事ばかり考えていましたが、これ自体私の逃げで、極力娘の事を考えたく無かったのです。
娘の事から逃げたかったのです。
しかし、私のその様な思いとは裏腹に、考えなければならない時はすぐにやって来てしまいました。
暫らくして入って来た妻の手には、大きなバッグが握られています。

「あなた、ごめんなさい。私は、あなたの人生を無茶苦茶にしてしまいました。私自身の幸せも、自分で壊してしまいました。今迄ありがとうございました。本当にごめんなさい。」
「理香は連れて行くなよ。理香は俺の娘だ。誰の子であろうと理香は俺の娘だ。俺から全てを奪って行く事は許さん。行くなら一人で出て行け。」

言ってしまってから、何故この様な事を言ったのか考えました。
娘を、自分の子供として育てていけるのか?
憎い稲垣と妻との子供に、今迄通り愛情を注げるのか?
妻への嫌がらせに、娘を取り上げようとしているだけでは無いのか?
しかし、何も考えずに口から出た言葉が、私の本心だと知りました。

離婚するにしてもしないにしても、このまま別れたのでは後で必ず後悔すると思っていても、私から離婚だと言い、出て行けと言っていた手前、出て行くなとは言えません。
妻の本当の気持ちは知りたいくせに、この様な大事な局面でも自分の本心は出せないのです。
出て行かないでくれなどと言って、少しでも自分が不利になる様な事は出来ないのです。
この件についての、絶対的有利を崩したくないのです。
このまま別れてしまえば、残るのは金銭的な問題の有利不利だけで、妻をもう責める事も出来ずに、夫婦としての有利不利など無くなってしまうのに。

取り上げていた妻の携帯を渡し、口から出たのは思いとは逆の言葉でした。

「もう会う事も無いと思うから、今後の事は電話で話し合おう。」

妻は暫らく、渡された携帯を見詰めていましたが、

「理香は連れて行かせて下さい。理香と離れる事なんて出来ません。お願いします。」

これを聞いて、少しだけですが気が楽になりました。
何故なら、娘を渡さない限り妻との縁は切れないからです。
実の娘では無いにしても、今まで愛情を注いで来た可愛い娘まで、妻との駆け引きに使おうとしている自分が情けなくなります。

「本当の父親でも無いお前なんかに権利は無いと言いたいのか?奴との愛の結晶を奪うのかと言いたいのだろ?俺とは別れたいが、好きな稲垣との子供とは別れられないか。」
「違います。私はあなたとも・・・。ごめんなさい、もう何を言っても信じては頂けないですね。」

妻が玄関に行くまでずっと、どの様に引き止めようか考えていたのですが、良い言葉が見つかりません。
妻は、このまま、稲垣のものになってしまうのかと思うと、悔しくて堪りません。

「おまえが行ける場所は稲垣の所しか無いはずだが、今は奥さんが来ているぞ。これから2人で奥さんを追い出すのか?」
「彼の所には二度と行きません。」
「それなら何処に行く?もう嘘はつかなくてもいい。別れるのにこれ以上、俺に嘘をついたところで同じだろ。」
「何処に行けば良いのか分かりません。私が行ける場所はどこにも無いです。駅に行って、始発を待ちながら考えます。あなたや典子さんへの慰謝料の事も有るから、何処か住み込みで働ける所でも探してみます。」
「それが本当なら、行き先も分からずに、理香を連れて行くつもりだったのか?やはり理香を連れて、稲垣の所に行くつもりだったのだろ?」
「違います。本当に彼の所には行きません。」

妻はそう言い、暫らく考えてから。

「そうですね。理香を連れて行きたいと言ったけれど冷静に考えれば、落ち着く先が決まってもいないのに、理香を引き取る事も出来ない。勝手なお願いですが、それまで理香の事をお願いします。」
「それまでも何も、理香は絶対に渡さん。お前は今迄、俺の子供では無いと分かっていながら俺の母親に預けて、あいつに抱いてもらいに行っていたのだぞ。理香の不憫さが分からないのか?」

妻が泣きながら出て行ってしまい、私の心に大きな穴が開いてしまいました。
正確に言うと娘の事が有るので、大きな穴が2つも開いてしまった状態です。
暫らくの間ぼんやりと考えていたのですが、考えれば考えるほど私の怒りは稲垣に向かい、稲垣の携帯に電話をしたのですが、出たのは奥さんでした。

「折角来て頂いたのに、帰れと言ってしまい申し訳無かったです。アパートに着いたらご主人だけ、またこちらに来てもらって下さい。」
「私もお邪魔しても良いですか?車に乗ってから主人が重大な事を告白したので、車を止めて話していて、実はまだ近くにいるのです。その事をご主人と智子さんに聞いて頂きたいのです。」

私には、奥さんの言う重大な事が娘の事だと分かっていたので、別に今更聞きたい話でも無く、奥さんがいては怒りをぶつけ難いので、本当は稲垣だけに来て欲しかったのですが、

「ええ、構いません。ただ智子は出て行ったのでいませんが。」
「えっ、何処に?」
「分かりません。駅で始発を待つと言っていたので、今頃まだ駅に向かって歩いているのか、駅に着いていたとしても始発までには、まだ何時間も有りますから、駅のベンチにでも座っているのではないかと思います。」

私が詳しい話をしたのには、奥さんの優しさに縋り、妻を連れ帰って欲しいという期待が有ったのかも知れません。

私は、気が落ち着かず、檻の中の熊の様に家の中を歩き回って待ちましたが、近くにいると言っていたはずが30分経っても来ません。
きっと妻を説得してくれているのだと期待しながら待つと、それから1時間ほど経った頃に、家の前で車の止まる音がしました。
私は、余裕が有る様な振りをしたくて、慌てて居間に行くと煙草に火をつけましたが、一向に誰も入って来ません。
暫らくして奥さんの私を呼ぶ声が聞こえたので玄関まで行くと、妻が稲垣と奥さんに支えられて立っています。
妻は遠くを見ている様な虚ろな目をしていて、私の方を見るでも無く、全体に正気が感じられません。
例え支えてくれているとしても、稲垣が妻に触れている事が気に入らず、妻を支えてから稲垣を突き飛ばし、奥さんに手伝ってもらって寝室のベッドに寝かせ、

「何が有ったのですか?」
「智子さんの前では何ですから、他の部屋で。」

妻の様子が心配で離れたくは無かったのですが、一時的なショックを受けただけなので、大丈夫だろうと奥さんに言われ、妻を残して3人で座敷に行きました。

「ショックを受けた?」
「はい。あの後、ご主人の姿が見えなくなると、この人は慌てて逃げる様に車まで走って行きました。遅れて車まで行った私が乗ろうとすると全てロックがして有り、私だと分かると開けてくれたのですが、走り出せば自動でロックされるのに、わざわざロックをしてからエンジンをかけ、様子がおかしいのでよく見ると、手足が微かに震えていて。」

おそらく稲垣は、私が怒った顔でキッチンへ行ったので、また包丁を取りに行ったと思ったのでしょう。

「余りに様子がおかしいので、どうしてご主人があの様に激しく怒り出したのか聞いたら、とんでもない事をしていた事を白状しました。それも身の危険を感じて、私の様な者に助けてもらおうと、震えながら話して来ました。殺されても文句も言えない様な事をしておきながら、もしかしたら殺されるかも知れないと言って、女の私に助けてもらおうと縋って来ました。私の100年の恋も一度に覚めました。この人は最低な男です。学生時代は勉強も出来て、今は仕事も優秀かも知れないけど、人間的には最低な人間です。私は今まで、こんな男に気に入られようと努力していたかと思うと悔しいです。こんな男に捨てられないように努力していたのかと思うとやり切れません。こんな男、私の方から捨ててやる。」

奥さんは、その話になると興奮していて、妻があの様な常態になった事の説明をしてくれずに、一気に捲くし立てると、畳に伏せて泣いてしまいました。

「典子。」

稲垣が弱々しい声で奥さんを呼ぶと、奥さんは顔を上げて、

「私の事を呼び捨てにしないで。もうあなたの妻をやめます。もっと早く気付けば良かった。そうすれば私の人生も変わっていた。」

私は最初、奥さんが稲垣の事を最低の男だと言っているのは、妻との間に子供を作った事だと思いましたが、その事は、妻も知っている事で、その事を奥さんに詰られたくらいでは、泣き叫んで取り乱すことは有っても、あの様な状態にはならないと思い、奥さんに質問しようとしましたが、奥さんの話は続き、

「あなたは最低な男です。妻としては勿論ですが、女としても絶対に許さない。智子さんに同情はしたく無いし許す気も無いけれど、あなたのした事は余りにも酷すぎる。同じ女性として、あなたが智子さんにした事を絶対に許さない。」

奥さんの、妻を庇うかのような言葉に困惑していると、

「この人は智子さんを騙していたのです。それも、智子さんの一番弱いところを利用する様な、もっとも下劣な騙し方で。」
「それはどの様な事ですか?奥さんもお聞きになったかと思いますが、騙して妻を妊娠させ、娘がこの男の子供で有る事を言っておられるのですか?お願いですから教えて下さい。娘が私の子供では無いと分かった今、もう何を聞かされても怖くは無いです。」
「私からはとても言えません。話すだけでも気分が悪くなる。」

そう言ってから稲垣を睨みつけて、

「あなたが言いなさい。助けを求めて私に話し、その後智子さんに話したのと同じ事を、もう一度ご主人にも話して謝りなさい。きっとそれ以外にも有るのでしょ?もう何もかも全て正直に話したら?この期に及んでまだ隠そうとするのなら、私は皆に全て話して、あなたが何処にも顔を出せない様にしてやる。銀行やあなたの友達、子供達にもあなたがどの様な人間なのか教えてやる。あなたがもっとも知られたくない、大事な大事なお母様にも全て聞かせて、どんな育て方をしたのだと言ってやる。もう離婚を覚悟したから、私は何も怖く無い。早くご主人に全て話して謝ったら?早くしなさいよ。」

奥さんは涙を流してはいても怒りは物凄く、稲垣を死ぬほど殴りたいと思って呼び付けた私は、奥さんの気迫に押されて、殴るどころか罵倒する事さえ出来ずにいました。

私が急に殴ったのは、娘の事を妻から聞いたからだと感じた稲垣は、私の怒りの深さに脅え、穏便に済む様に、奥さんに私を説得してもらおうと全てを告白したのでしょう。
私を恐れて、私から1番離れた部屋の隅に正座していた稲垣は、奥さんの言葉で、私の顔色を伺うかの様にゆっくりと近付いてくると、少し離れたところで土下座して、

「ご主人、申し訳有りませんでした。私はずっと奥様を騙していました。若い頃から奥様が私に特別な感情を持っていると気付いていたので、それを利用してしまいました。」
「そんな事は、妻の話を聞いて知っている。それよりも、娘の事はどうするつもりだ?今更おまえの子供だと言われても、俺は納得出来ない。いや、絶対に納得しない。娘は俺の子供だ。」
「その通りです。ご主人のお子さんです。私の子供では有りません。」
「ああ、だからと言ってこの責任は重いぞ。娘は俺の子供と思って育てる。だがおまえは絶対に許さない。命を弄びやがって。例えおまえが死んでも俺は絶対に許さない。」
「違うのです。本当にご主人のお子さんなのです。私の子供では有り得ないのです。」

私は稲垣お得意の逃げだと思い、

「どうせ妻といる時は、お互い不倫の事は、気付かれない様に離婚して、本当の親子3人で再出発しようと話し合っていたのだろ?それがばれて、自分達の思い通りには離婚出来なくなったら、今度は自分の子供では無いと言って責任逃れか?」

その時奥さんが、

「違うのです。本当にご主人のお子さんなのです。この人の話だと、確か娘さんはO型ですよね?智子さんにはO型だと言って騙していたらしいのですが、この人はAB型です。」

一瞬、訳が分かりませんでしたが次の瞬間、声を出して泣きたいほどの喜びが湧いて来ました。
しかし、手放しで喜ぶ訳には行きません。
何故なら散々嘘をつかれていて、何が本当で何が嘘なのか分からない状態だったからです。
癌だと言われて入院し、再検査の結果、良性のポリープだったと言われ、死を覚悟していただけに、泣きたいほど嬉しいはずが、もしかすると隠さなければならないほど、末期の癌かも知れないと、疑っているのと同じ様な状態です。

「本当にAB型で間違い無いですか?」
「はい。」
「おまえには聞いていない。おまえの言う事は信用出来ない。」

すると奥さんが、

「AB型で間違いないです。お疑いになられるのも当然です。自宅にこの人の献血手帳が有ると思いますので、コピーをとって後日お送り致します。私を信じて下さい。」

この時、妻と稲垣の事など、もうどうでも良いと思えるほど嬉しかったのを覚えています。
そかし、稲垣の前では喜ぶ事も、ましてや嬉し泣きなど出来るはずも無く、怒った顔をしながら、心の中では娘が我が子だった事の喜びを噛み締めていました。
しかし時間が経過すると、娘が私の実の子だったと言う事だけで、もう充分だと思えていた気持ちは次に移り、妻があの様な状態になったのは、それを聞いてショックを受けたのだとすると、私の子供だった事を喜ばずに、稲垣の子供で無かった事がショックであの様に成ったと思え、また私に怒りが戻って来ました。

「全て聞かせてもらおうか?」
「・・・はい。」

そう言ったきり何も話さない稲垣に対して、妻に対する怒りまでもが向かい、髪の毛を掴んで立たせると、また殴ってしまいました。

殴られて座り込んでしまった稲垣を、今度は蹴ってやろうと足を振り上げたのですが、その瞬間、稲垣はそっと目を瞑り、

「何でも話します。全てお話します。」

そう言われたので、何故か私は振り上げた足を下ろしてしまい、そのままではばつが悪く、稲垣を足で突き倒すと胡坐を掻いて座ました。

「おまえは智子の事をどう思っている?好きなのか?若い頃からずっと好きだったのか?」

何故か私は、この様な事を聞いてしまいましたが、こんな事は真っ先に聞かなくても良い事でした。
妻の気持ちは知りたくても稲垣の気持ちなど、後で聞けば良い事でした。
しかし、聞いてしまった手前話を続け、

「婚約中にも関わらず、妻には特別優しくしたそうだが、その頃から好きだったのか?」
「いいえ、好きだとか言う気持ちでは無かったです。勿論可愛いと思い、凄く興味は有りましたが、特別好きとか言う気持ちは無かったです。」
「それならどうして妻に特別優しくした?どうして近付いた?」
「それは・・・。」

稲垣が顔色を伺うかの様に奥さんを見ると、

「私も聞きたい。もう正直に何もかも話して。」
「それは・・・智子さんの胸が・・・気に成って・・・。」

稲垣は妻が同じ支店に配属されて以来、妻の豊満な胸が気になって仕方がなかったそうです。
そうかと言ってじろじろ見る訳にもいかず、周りに気付かれない様に時々横目で見ては、頭の中で想像を膨らませていたそうですが、ある時伝票を渡しに行くと、妻は机に向かって前屈みで仕事をしていた為に、ブラウスの胸元から胸の膨らみが少しだけ見えました。

その事で味を占めた稲垣は、何かと用を作っては妻の所に行く様になり、仕事で困っている様子が有った時などは、真っ先に行って教えながら胸元を覗き、見えない時でも直近で膨らみを見て楽しんでいた様です。

しかし周囲の目も有り、妻にばかり仕事を頼む訳にもいかず、自分ばかりが教えに行くのも不審に思われると思い、妻が自分に恋愛感情を抱いているのではないかと感じ出した頃からは、勤務時間中は無関心を装い、仕事が終ってから喫茶店などで待ち合わせ、妻の悩みを聞きながら服に包まれた妻の胸や身体を間近で見ては、想像を膨らませる様になりました。

これほど露骨には出来なくても、同じ男である私には、ここまでの気持ちは分からない訳では有りません。
私も女子社員がタイトスカートなどを穿いて来た時などは、お尻の丸みが気になる事も有りますし、通勤時なども、夏場女性が薄着になるのは嬉しいものです。

「その頃から妻を抱きたかったのか?」
「抱きたいと言うよりは、いつも想像していた裸を見たかったです。いいえ正直に言います。出来ればそうしたかったです。私の事を好きになっていると感じていた時は、ホテルに今日は誘おう、明日は誘おうと思っていましたが、婚約していた事も有って、思うだけで結局そこまでの勇気は出ませんでした。その内これは恋愛感情を抱いているのでは無く、兄か父親の様に思っているのかも知れないと感じ、そう思うとトラブルが嫌で、余計に誘う事も出来なくなりました。」

その時奥さんが、

「智子さんを抱きたかったと言う事は、その時点で私よりも智子さんを愛していたと言う事でしょ?正直に、好きだったと言ったら。どうして私と結婚したの?その時どうして私を振ってくれなかったの?」

この時の稲垣の気持ちは分かりませんが、奥さんのこの話は少し違うと感じました。
私は、男なので女性の気持ちは分かりませんが、男は好きな人がいても他の女性と出来てしまうのです。
男は出来てしまうと言い切ると、そうでない方に悪いのですが、私には出来てしまいました。

妻と付き合う前にも、何人かの女性とお付き合いした事は有りましたが、その時々相手を真剣に愛していて、身体の関係も有りながら、友達とソープに行ったりした事も有ります。
お尻を振りながら前を歩く女性を見ていて、抱いてみたいと思った事も有ります。
結婚してから妻を裏切った事は有りませんが、正直その様な気持ちが無い訳では有りません。

奥さんは、私がいるのも忘れているかの様に、自分が疑問に思っていた事を稲垣に問い詰めだし、

「どうして好きでも無い私と付き合ったの?どうしてお母様にあれだけ反対されても、好きでも無い私なんかと結婚したの?」
「いや、付き合っていて愛していると分かったからプロポーズした。これは本当だ。」
「それなら逆を言えば、それまでは、好きでも無いのに交際を申し込み、好きでも無かったのに付き合ってくれていたという事?」
「その頃は、お袋に逆らいたかっただけかも知れない。でも結婚したのは愛したからだ。典子だけを愛していたからだ。これは本当だ。」
「それなら今はどちらが好きなの?智子さんなの?私と子供まで捨てて、一緒になろうとしていたのだから、智子さんの方が好きになったのね?私の事は嫌いになったのでしょ?」
「嫌いじゃない。智子さんを好きになってしまったと思い込んでいたが、本当は典子の方が好きだったと気付いた。典子から逃げようとしていただけで、本当は典子や子供達と一緒にいたいのだと、最初ここにお邪魔した時の、典子の話を聞いていて、はっきりと分かった。」
「私から逃げる?」

2人の会話を聞いていて分かった事は、稲垣は幼い頃から2人の姉と比べられながら、勉強から生活態度まで母親に厳しく育てられた様です。
優秀な姉と比べられながらも母親に褒められたくて、母親の望む通りの学校へ行き、父親も銀行マンだった為に銀行に就職しろと言われて、母親が選んだ銀行に就職し、後は母親が決めてくれる相手と結婚するだけのはずでした。

しかし、一流大学を出ていて趣味はピアノ、お茶やお花の師範の免状も持っている娘とお見合いをしろと言われた時に、ようやく自分の人生がこれで良いのか考える様になり、母親に初めて逆らって、母親の理想とは逆の、大学を出ていない習い事もした事のない奥さんと付き合ったそうです。

「口喧しいお袋や姉達に逆らいたくて、典子と付き合ったのかも知れない。お袋に決められた人生が嫌だという理由だけで、典子と付き合ったのかも知れない。お袋が理想としている女性以外なら、誰でも良かったのかも知れない。しかし、付き合っていて好きになったから結婚したのは本当だ。私はそれまで、女は皆お袋や姉の様な生き物だと思っていた。お見合い写真を見て、この女と結婚をしてもあの様な生き物が、身の回りにもう一人増えるだけだと思った。しかし、典子と付き合ってみるとお袋達とは違っていた。最初は私と結婚出来る様に、優しい振りをしているのでは無いかと疑っていたが、違うと分かったから結婚したいと思った。実際、結婚してからも典子は優しく、私に逆らう事も無く、常に私を立ててくれて、典子といると私は男なのだと実感出来た。」
「私だけでは無いでしょ?智子さんにも同じ様な思いを感じていた。違う?」
「そうかも知れない。でも愛していたのは典子だった。しかし・・・。」

結婚当初、何でも稲垣の言う通りにしていた奥さんも時が経つにつれ、当然の事ながら全て稲垣の思う様には出来ずに、意見が食い違う事も出て来ました。
特に子供が生まれてからは、奥さんが稲垣に色々頼む事も増えたのですが、私にはそれが普通だと思えても、幼い頃からのトラウマが有り、常に女性よりも優位な位置にいたいと思っていた稲垣には、奥さんに命令されている様に聞こえたと言います。

最初は奥さんに謝る様な雰囲気だった稲垣も、次第に奥さんへの不満を訴え出し、

「セックスもそうだ。最初の頃は私がしたい時に応えてくれていた。しかし、子育てに疲れているとか何かと理由をつけて、徐々に典子主導になっていった。私はしたくなると、典子の顔色を伺っては、お願いする立場になってしまった。だから・・・。」
「だから何?だから智子さんを騙して浮気したと言いたいの?9年前の浮気は、私のせいだと言いたいの?私は精一杯あなたに応えていたつもりです。よく思い出して下さい。風邪気味で熱っぽい時や、子供が熱を出して前日ほとんど眠っていない時なんかに言われても、それは無理です。それなら、今回の事は何と言い訳するつもりですか?」
「典子はずっと私を疑っていた。私の帰りが遅かったり、出張が有ると必ず事細かに行動を聞いてきた。疑っていた訳が、脱衣所で拾った智子さんのイヤリングの一部だと今回分かったが、私は全て監視されているようで息苦しかった。結婚するまではお袋や姉で、今度は典子かと思った。」
「でも、結局は疑われる様な事をしていたのでしょ?あなたが何もしていなければ、この様な事にはならなかった。私に責任転嫁しないで。」

奥さんが母親の様になってきたと感じた稲垣は、何でも言う事を聞く妻に惹かれ、妻に乗り換えようと思ったのでしょう。

稲垣と奥さんの話を聞いていた私は複雑な心境でした。
妻を愛していたのではなくて、奥さんを愛していると言うのは、全て失うのが嫌で、奥さんの手前言っている事だとしても、未だに妻を愛していると言われるよりは、今後の対処がし易いと思え、私には喜ばしい事なのですが、裏を返せば、妻を真剣に愛してもいずに、私の大事な家庭を壊した事になり、それは今迄以上に許せない事でした。

稲垣の話が本当なら、この様な歪んだ理由で家庭を壊されたのかと思うと、強い怒りを覚えます。

「そんな話は帰ってから2人でしてくれ。それよりも、今回の事を聞かせろ。どうやって妻と付き合う様になった?」

稲垣は、転勤が決まる前まで、行き付けのスナックに手伝いに来ていた、バツイチの女に入れ揚げていました。
お金の為に機嫌を取っていると分かっていても、その事が心地良かったと言います。
しかし奥さんは、女の影を感じてから相手は妻でないかと疑い、稲垣を問い詰める様な会話が増えていき、稲垣にはその事が煩わしく、転勤を期に単身赴任を強く望んだ事で、奥さんもそれまでの自分の態度を反省して、これを許したそうです。

いざ赴任するとそこには偶然にも妻がいて、稲垣は勝手に運命のような物を感じ、奥さんが浮気をして離婚になりそうだと嘘をつき、同情を惹いて近付いた様です。
妻は、以前凄く世話に成ったので少しでも恩返しがしたいと言い、外で会っていて要らぬ噂を立てられては、妻に迷惑を掛けてしまうからと言う稲垣の提案に乗り、アパートへ行く様になりました。

最初は稲垣の悩みを聞くだけだったのですが、次第に先に帰る妻が食事の用意をして稲垣の帰りを待ち、一緒に食事をする事も増え、休日には掃除や洗濯にも行く様になりました

「まるで通い妻じゃないか。智子がアパートに行く様になってから、すぐに抱いたのか?」
「いいえ、身の回りの世話をしてくれていただけでした。」
「以前に関係を持った事の有る男と女が、狭い部屋に2人だけでいて、何も無かったと言うのか?正直に話せ。」
「すみません。アパートに来る様に成って一ケ月ほど経った頃から、キスの様な事は・・・・・有りました。私の執拗な要求に負けたのか、渋々ですが応じてくれました。でも、身体の関係だけは、ご主人を愛していて娘さんにも顔向け出来ないので、いくら私の頼みでも聞けないと言って強く拒まれました。」

いくら特別な感情をもっていて、以前世話に成ったと勘違いしていたとしても、私が日本を離れてから2ヶ月ほどで、簡単にキスを許したのは許せません。
身体は許しても唇は許さないと聞いた事が有りますが、妻の場合それとは逆で、結婚している事が足枷に成っていて身体を許さなかっただけで、心は完全に許していたように感じてしまうのです。

私はこの運命の悪戯を怨みました。
私の単身赴任が無かったら、この様な事にはならなかったかも知れません。
多少、稲垣との接触はあっても、毎日私の顔を見ていたら、罪悪感からこれ以上は進まなかったかも知れません。
何より、稲垣と同じ職場にならなければ、稲垣との接触も無かったでしょう。

「それなら、どの様に関係をもつ様になった?」
「それは・・・。」
「はっきりと言いなさいよ。私や智子さんに話した事をご主人にも話なさい。もう、殴られても殺されても仕方が無いでしょ?全てあなたがしてきた事なのだから。少しぐらいは男らしくもう腹を括ったら?」

稲垣は妻と会う度に、以前関係を持った時に見た身体が脳裏に浮かび、服は着ていても裸に見えたと言います。
稲垣自身も歳をとったせいか、腰の回りに肉が付き、以前よりも肉付きのよくなった妻のウエストを見て、乳房も以前より垂れた崩れかけた身体を想像すると、若い娘の身体よりも遥かに興奮を覚えたそうです。

抱きたいと言って断られたものの、その後も通って来てくれる妻を見ていて、何か方法が有るはずだと考え、思い付いたのが子供の事でした。

妻も私と同じ様に、血液型からだけではなくて稲垣の話す状況からも、娘は稲垣の子供だと思い込み、翌日には体調が悪いと言って銀行も休み、アパートに来る事も有りませんでした。
妻はその翌日も銀行を休んだので、夜稲垣が電話をすると、

「この事は主人には黙っておいて下さい。お願いします。」
「それは出来ない。これは全て私の責任だ。今ご主人は大事な仕事をしておられるし、とても電話などでは話せる事ではないから、話すのは帰国してからになるが、何の責任もとらずに、このままにはしておけない。」
「それは困ります。」
「困るといわれても、このまま私の娘を他人に育ててもらう訳にはいかない。どちらにしても、今後の事を話し合いたいから、明後日の土曜日にアパートまで来てくれ。」

妻は言われた通りに、土曜の朝アパートに来たそうです。

「おまえは嘘の天才か?どうしてその様な言葉がすらすら出て来る?第一娘がO型で無かったら何と言って騙すつもりだった?」
「智子さんは、忘れているようでしたが、赴任してすぐに聞いていて、3人の血液型は知っていたので、他の血液型の事までは考えなかったです。」

初めて妻がアパートに来た時に家族構成を聞いて、子供は関係を持った後に出来た娘が一人いるだけだと知り、自分の子供では無いかと心配になり、他の話しに紛れてそれと無く血液型を聞き、自分の子供では有り得ない血液型だったので、ほっと胸を撫で下ろしたそうです。

しかし妻は、久し振りに稲垣と話せる喜びで舞い上がっていたのか、一人暮らしの男のアパートに来た事で緊張していたかで、話した内容を忘れてしまっていたのでしょう。
稲垣の嘘はその場の出任せでは無く、全て用意周到に準備された物だと分かり、妻がああ言えばこう言う、ああすればこうすると色々なケースを想定し、妻を落としていったのだと思います。

「その事と、身体の関係をもつ様になった事とは、どの様な繋がりが有る?」

土曜の朝から話し合っていても、このまま私には隠しておきたいと言う妻と、私に話すべきだと言う稲垣の話は平行線のままで、次第に妻はどうしたら良いのか分からなくなり、取り乱していったそうです。

しかし、稲垣にとってはこれも予定通りの事で、妻を抱くという目的を達成させる為に、妻が自分では判断出来なくなり、自分自身を見失って行くのを待っていたのです。

「2人で責任をとろう。理香ちゃんの為に、何もかも捨てて責任をとろう。」
「えっ?どういう事?」
「ご主人には悪いがお互いに離婚して、2人で理香ちゃんを育てて行こう。理香ちゃんに対して責任をとろう。今は理香ちゃんの幸せだけを考えよう。」
「私には出来ません。主人と別れるなんて出来ません。」
「私だってそうだ。離婚を考えてここに来たが、やはり妻には、まだ情が有る。それに、智子と違い私は子供達とも別れる事になる。しかし、今は自分の幸せや自分の都合を考えている時では無いと思う。私の子供達と違い、理香ちゃんはまだ小さい。理香ちゃんさえ大きくなれば、私はご主人に殺されても良いと思っている。理香ちゃんが1人で判断出来る歳になるまで育てるのが私の責任だと思う。智子も自分の幸せや世間体、罪悪感など全て捨てて、理香ちゃんの事だけ考えて欲しい。」
「それなら今迄通り、私と主人で・・・・・・・。」
「それでいいのか?智子はそれで平気なのか?ご主人は何も知らずに、自分の子供だと疑いもせず一生懸命働き、自分を犠牲にしてまで一生懸命愛情を注ぐ。智子はそれを平気で見ていられるのか?俺にはとても出来ない。それに血とは不思議なもので、血の繋がりが無いといつかギクシャクしてくるものだ。まさか自分の子供では無いなんて気付かないかも知れないが、お互いにどこかしっくりと来なくなる時が来る。理香ちゃんも最初は戸惑うだろうが、いつか私の事を分かってくれる様になる。それが血の繋がりだ。本当の親子3人で暮らそう。」

しかし、妻にはすぐに返事が出来るほど、簡単な問題では有りませんでした。

「他の生き物を見てみろ。子孫を残し、子孫を育てる事が最大の目的で、その為だけに生きているものも多い。鮭もそうだ。子孫を残す為にぼろぼろになりながら激流を登り、子孫を残すと死んで行く。私の人生もそれでいいと思っている。ご主人に怨まれようと、妻や子供達に軽蔑されようと、世間に非難されようと、理香ちゃんさえ立派に育てる事が出来ればそれでいい。私の幸せなどどうでもいい。智子はどうだ?」

その後、妻は一言も話さずに帰っていったそうですが、何も話さず、何も反論せずに帰った事で、妻を自分のものに出来ると確信したそうです。

稲垣は妻が決心してくれるという自信は有ったのですが、最低でも2、3日は掛かると思っていたそうです。
しかし、稲垣にとっては嬉しい誤算で、妻は翌日の昼過ぎにはアパートに来て、部屋の入り口に立ったまま。

「理香の寝顔を見ながら、一晩よく考えました。」
「決心してくれたのだな?」

妻は、涙を流しながら、ゆっくりと頷いたそうです。
稲垣は妻を抱き締め、そのままベッドまで連れて行き、キスをしながら胸を触りました。

「やめて下さい。そんな事はやめて下さい。」
「どうしてだ?これから周囲の者は全て敵になる。夫婦だけでも仲良くしていなくてどうする?父親と母親が仲良くしなくて、理香ちゃんが幸せになれるのか?これは私達だけの為では無い。理香ちゃんの為でも有るのだ。」
「でもまだ私達は・・・。」
「ああ。ご主人や私の家族に話すのは、ご主人が帰国して落ち着いてからになる。理香ちゃんに話すのはもっと後だ。でも、今迄兄妹の様に思っていた関係が、急に夫婦の関係にはなれない。
だからそれまでに、夫婦としてやって行ける様になりたい。夫婦にとってセックスは大事な位置を占める。それに、2人で皆を説得しなければならなくなるから、それまでに夫婦としての絆を強くしておきたい。2人で力を合わせないと、理香ちゃんを幸せには出来ない。分かるな?」

この日、稲垣と妻は2度目の関係をもち、その後何度も何度も、絆を深め合ったのでした。
この間、奥さんは話を聞きながら、ずっと声を殺して泣いていたのですが、急に顔を上げて、

「どうやって智子さんを抱いたの?どんなセックスをしていたの?」

そう言ってから奥さんは私の顔を見て、恥ずかしそうに慌てて俯いてしまいました。
私もその事が気になっていて、女で有る奥さんも同じ思いだと知り、少し安心したのですが、妻からは聞けても稲垣から聞くのは耐えられずプライドも許しません。

「普通に・・・。」
「普通?少し待っていろ。」

私が稲垣からプレゼントされた妻の下着を取りに行くと、妻は眠っているようでした。
座敷に戻った私は、稲垣の前に卑猥な下着を放り出すと、その中から真っ赤なパンティーを手に持ち、大事な部分に空いている穴から指を出し、

「こんな物を穿かせておいて、普通にだと?おまえには何が普通なんだ?」
「いえ、すみません。以前からこの様な下着を身に着けた女性を、目の前で見てみたいと思っていましたが、妻に頼む訳にも行かず・・・。」
「私は知っていました。あなたにその様な趣味が有るのは知っていました。あなたの書斎に隠してあった嫌らしいビデオは、ほとんどの女性がその様な下着を着けている物だったし、その他にも、その様な下着のカタログや、インターネットからプリントアウトした、写真なんかも隠して有るのを知っていました。」
「それにしても、智子がこの様な物を素直に身に着けたとは思えない。ましてや、あの様な格好で人前に出るなど考えられない。また何か騙して穿かせたのか?」
「お聞きになったかも知れませんが、9年前と同じ様に・・・。」

初めの頃は、セックスの前には、必ず拒むような言葉を言い、行為中も時々拒む素振りを見せていた妻も、3ヶ月もするとその様な言葉も消えてセックスを積極的に楽しんでいるかの様に見えました。

稲垣は、もうそろそろ色々な事をさせても大丈夫だと思い、妻が一度気を遣って快感の余韻に浸っている間に、通販で買っておいた下着を持って来て、自らの手で穿かそうとしたのですが、異変に気付いた妻の激しい抵抗に合ってしまい、仕方なく断念しました。

しかし、諦め切れない稲垣は9年前を思い出し、その時と同じ様に、今迄散々抱いたにも関わらず、どうしてもセックスの対象としては見られないと嘘をつき、夫婦として上手くやって行くには、セックスの時だけは違った女になって欲しいと頼み、最初は比較的大人しい物から身に着けさせて徐々に妻を慣らし、徐々に過激な下着を身に着けさせていきました。

「それにしても、自分で楽しむだけでなく、どうして人前でもあの様な恥ずかしい格好をさせた?」
「それは・・・。」
「それは何だ?」

数ヶ月前から、妻の様子がおかしいと気付いたそうです。
それは、私がいつ戻ってきてもおかしくない時期になり、妻がまた迷い出したのだと思い、もう昔の妻では無いと分からせる為に、銀行に来る時以外はあの様な格好を強要したのです。

もう私の妻では無く、稲垣のものだと分からせる為に、脅したり宥めたりしながら説得して、あの様な格好をさせたそうです。

稲垣の話を聞いていて、妻の陰毛があの様な形に剃られていたのも、同じ理由だと思い、

「あそこの毛を剃ったのも同じ理由か?」
「はい。最初は化粧や髪型、髪の色も変えさせ、あの様な格好をさせるだけで効果が有ると思っていましたが、それらはどれも、ご主人が帰って来る前に直そうと思えば、直せる物ばかりだと気付きました。髪も切って染め直せば良いし、化粧はすぐにでも直せます。服や下着も捨てれば良い。それで不安になって。」
「智子は素直に剃らせたのか?」
「・・・。」
「言わなくても、後で智子に聞けば分かる事だ。今おまえから聞くのと、後で智子から聞くのでは、俺の怒りも違う。話せない事は話さなくてもいい。おまえが決めろ。」
「最初はホテルで身動き出来ないように縛り、嫌がる智子さんを無視して・・・・・・・・・・すみませんでした。」

『最初は』と言う事は1度だけで無く、何度かその様な行為をされたという事です。
その時の妻の姿を想像すると不憫だと思いましたが、私を裏切っていた事とは別問題で、妻を許す事など到底出来ません。
セックスの本当の良さを覚えてしまっていた、妻の身体では仕方の無い事かも知れませんが、積極的に快感を得ようとしている姿を想像すると、妻が本当に騙されていたとしても、許す気になどなれません。

気持ちと身体は違うと思いたいのですが、妻が上になり下になり、ある時は、後ろからも突かれ、自らも腰を使っている姿を想像するだけで、許す気にはなれません。

「あの様な格好をさせて、この事が発覚しても良いと思っていたのか?現にお袋が妻の異変に気付いた。それに、毛を剃ってしまっては私が帰って来たらばれる恐れが有っただろ?」
「最初の頃は知られる事が1番怖かったです。いいえ、ずっと怖かった。でも、それ以上に智子さんが離れて行く事の方が怖く、その時はその時でどうにかなると思いました。」

あの計算高い稲垣が、妻が離れて行くかも知れないと思った時、感情だけで動きました。
この事からも、やはり今は奥さんの手前言っているだけで、本当は妻の事を今でも愛していて、まだ諦めてはいないのでは無いかと疑ってしまいます。
今はじっと台風が通り過ぎるのを待っているだけで、まだ諦め切れていないのでは無いかと疑ってしまいます。
そう思うと、益々妻とは離婚出来ません。

妻があの様な状態になったのは、長年信じていた稲垣に裏切られていたと、知った事からだと想像はつきますが、この男なら、私達を欺いて少しでも穏便に済ます事が出切る様に嘘をついたとでも言い、また妻に取り入る事は容易い事でしょう。

妻に対する未練や情も有るのですがそれ以上に、誰に何と言われようとも、妻とこの男が自由になり、幸せになる事だけは我慢出来ないのです。
稲垣は勿論ですが、もしも別れる様な事になれば、妻にも幸せにはなって欲しくないのです。
一生後悔して、苦しんで欲しいのです。
私は、そんなくだらない男なのです。

妻があの様な状態になって寝ている事自体、妻の身勝手な甘えだと思えてきて起こしに行ったのですが、妻はベッドに寝て壁を見たまま、私を目で追う事もしません。

「おまえも座敷に来い。おまえからも聞きたい事は山ほど有る。」

やはり妻は、私の存在など気付いていないような様子で、一人言の様に呟きました。

「彼も同じだった。父や義兄と同じだった。」

そう言うとまた目を閉じて眠ってしまい、このままでは妻が壊れてしまうと感じたのですが、私にはどうする事も出来ません。

***

稲垣夫婦が帰り、私も少し眠っておこうと横になったのですが、色々な思いが交錯して、眠る事が出来ずに朝を迎えてしまいました。
この様な人生の一大事にも関わらず、いつまでも会社を休む訳にもいかないと、仕事の事が気になりだし、結局母に妻の事を頼んで出社しました。
この様な私を自分でも情け無く思いますが、後の生活の事まで考えてしまうのです。
妻や娘と離れる様な事にでもなれば働く意欲など無くなり、仕事など辞めてしまうかも知れないのに、会社に行ってしまったのです。

しかし、この様な状態では、まともな仕事など出切るはずも有りません。
何度か仕事を抜け出して、母に電話をして妻の様子を聞いたのですが、妻の状態は変わる事は有りませんでした。
私を気に掛けてくれている上司が昼休みに、

「どうした?家庭で何か有ったのか?」

ずばり言い当てられた私は、この上司だけには話しておこうと。

「はい。帰国してから妻と少し・・・。」

それだけで上司は悟ったかのように。

「そうか。俺も昔単身赴任をしていた時に、女房と色々有った。今回の事はあんな遠くに赴任させた俺にも責任が有る。君がいないのは仕事上痛いが、決着が付くまで休暇を取れ。」
「しかし・・・。」
「男にとって仕事は大事だが、家庭有っての仕事だ。後は俺が上手くやっておく。」

私は上司に感謝し、言葉に甘えて急いで家に帰りました。

家に帰るとそのまま寝室に行き、妻に何度も呼びかけたのですが、一瞬目を開くだけでまたすぐに瞼を閉じてしまいます。

「私が話し掛けても、ずっとこんな状態だよ。トイレに行く時でも、まるで夢遊病者の様だし。一度医者に診てもらったほうが、良いのではないのかい?」

母に帰ってもらい、椅子に座ってじっと妻を見ていたのですが、昨夜は眠れなかった事も有り、知らぬ内に眠ってしまい、気が付くと窓の外は暗くなり出しています。
妻を見ると目は開いているのですが、じっと天井を見たままでした。

妻のこの様な姿を見せる事に抵抗は有ったのですが、娘を会わせてみようと思って実家に行くと、娘は私を見つけて抱き付いて来たので、私は涙を堪える事が出来ません。
手を繋いで帰る途中、娘にお母さんが病気になったと話し、それを聞いた娘は走り出したので私も後を追いました。
娘は寝室に入ると妻に駆け寄り、顔を覗き込んで、

「お母さん。お母さん、大丈夫?」

娘の声を聞いた妻は一瞬ビクッとし、夢から覚めたかの様に娘を抱き締め、稲垣夫婦に連れ帰ってもらってから初めて、声を出して泣きました。

「理香、ごめんね。ごめんね。」

今夜は、私と妻の間で寝たいという娘の希望を叶え、ベッドで川の字に成って寝たのですが、娘が眠ると妻が、

「あなた、ごめんなさい。私は昨日からずっと、もう一人の自分と会っていました。もう1人の私と話しをしていました。それで分かった事が沢山有ります。聞いて頂けますか?」

私と妻は娘を残してキッチンに行き、向かい合って座りました。

「もう少し落ち着いてからの方が良いのではないか?」

「いいえ、今聞いて欲しいのです。私はずっと自分に嘘をついていました。若い頃から自分を偽って生きて来たと分かりました。今聞いてもらわないと、また自分に嘘をついてしまう。あなたにも嘘をついてしまう。」

私は聞くのが怖かったのです。
私の想像通りの事を言われるのではないかと思い、聞きたくは無かったのです。
しかし、知りたい欲望の方が勝ってしまい。

「そうか。それなら聞こう。」
「私は若い頃から、彼の事が好きだった様な気がします。彼には典子さんという婚約者がいたので、彼を兄でもない父でも無い、訳の分からない存在にしてしまっていましたが、本当は愛していたのだと思います。姉の所を飛び出して、その夜抱き締められてキスをされ、凄く嬉しかったのは彼を愛していたからだと思います。あなたと付き合う様になったのも、彼に勧められたからです。このままでは男性恐怖症に成ってしまうかも知れないから、一度デートに応じてみるのも良いかもしれないと言われたからです。」

私は、稲垣の存在自体が無ければ、こんな事にはならなかったと思っていましたが、皮肉なもので、稲垣がいなければ私達が夫婦になる事も無かった訳です。

「稲垣を忘れたくて俺と付き合ったのか?奴を忘れたい為に、好きでも無いのに俺と結婚したのか?」

いつの間にか、稲垣の奥さんと同じ様な事を訊いています。

「私は自分を変えたいから、お付き合いを承諾したと思い込んでいましたが、本当はそうだったのかも知れない。彼を忘れたくて付き合ったのかも知れない。でも結婚したのはあなたが好きになったからです。あなたを愛したからです。それだけは信じて。」

信じたいのですが、これもまた稲垣が奥さんに言った言葉と同じでした。
立場は違っても、私達夫婦と稲垣夫婦は似ているのかも知れません。
違いと言えば、奥さんは2人の関係を疑いながら、ずっと苦しんで来たのに対して、私は稲垣の存在すら知らずに、のうのうと生きて来た事です。

「9年前にあなたを裏切った時も、私は確かに精神的に少しおかしかったし、あなたと喧嘩をして自棄になってはいたけれど、彼の言う事を100パーセント信じた訳ではなかった様な気がします。彼の言う事を信じよう。あなたとの子供が欲しくて、我慢して抱かれるだけで、決して彼に抱かれたい訳では無いと自分に信じ込ませていただけで、彼の事をまだ愛していて、抱かれたかったのかも知れない。自分に対して必死に言い訳をしていただけで、彼の愛を身体で感じたかったのかも知れません。」

今まで私は嫉妬心から、妻の稲垣に対する愛をどうしても白状させたかったのです。

しかし、このように告白されると、嘘でも

『私は騙されただけだった。』
『私を騙し続けた稲垣が憎い。』

と言って欲しかったと思いました。

稲垣に対する奥さんの質問を聞いていた時は、奥さんの前では、妻の方を愛しているとは言えるはずは無いので、そんな質問は愚問だと思っていても、いざ自分の事になると気になり、やはり同じ事を聞いてしまうのです。

「ずっと稲垣が好きだったと言う事か?俺よりも稲垣を愛していたのか?」
「いいえ、あなたを愛していました。私はあなたを1番愛していました。」

やはり愚問でした。
私に面と向かっては、私よりも稲垣方を愛しているとは言えない事は分かっています。
仮に妻の言った事が本当だとしても

『1番愛していた。』

では当然納得など出来ません。
1番という事は2番が有るのです。

『あなただけを愛している。』

でないと、私の心は満足しませんでした。
このままでは、今まで妻に愛情を注ぎ、妻も私だけを愛してくれていると信じて来た人生が、稲垣の奥さんが言っていた様に、全て無駄に思えてしまいます。
その時はそうでも、今は私だけを愛していると言う言葉を聞きたくて、止めておけば良いのに、質問を続けてしまいます。

「その時はそうだったのかも知れないが、今回はどうだ?今回は理香の事で騙されていたのだろ?その事で俺と別れて奴と一緒になろうと思ったのだろ?それとも、奴を愛していたのか?」
「理香があなたの子供では無いと言われた時はショックでした。理香の寝顔を見ながら考えていて、私は何を悩んでいるのだろうと思いました。普通ならあなたに許しを請い、許してもらえなければあなたと離婚して、私一人で理香を育てて行く事になると思います。選択は二つに一つしか無いと思います。しかし、私は彼との再婚も考えている。彼の事が好きでなければ、この様な事を悩む事自体無いと思いました。悩むという事は、多少でも彼に対しての愛が有るのだと思いました。勿論、理香があなたとの子供だと分かっていれば、離婚など考えもしませんでした。彼よりもあなたへの愛情の方が遥かに大きかった。でも、理香の事考えると、彼の言う通りにした方が良いと思ってしまいました。」

この話だけでも、かなりショックだったのですが、次の話で私は奈落の底に、突き落とされてしまいます。

「昨日からもう一人の私と話しをしていて、今回も自分を正当化する為に、自分自身に嘘をついていただけで、本当は彼の事が未だに吹っ切れていなかったのだと思い知らされました。私は違う世界に行ってしまった様な状態でしたが、最初は彼に裏切られたショックからだと自分を甘やかせていました。しかし、そうでは無くて、自分に嘘をつきながら自分を庇っていただけで、彼の嘘は切欠に過ぎず、彼への愛情から、あなたを裏切っていた事が分かり、その事がショックで現実の世界に戻れなかった。いいえ、戻ろうとしなかったのだと分かりました。その証拠に、理香があなたの子供では無いと、彼に言われる前からあなたを裏切っていました。これは彼への恩返だと自分を偽りながら、あなたを裏切っていました。」

何でも正直に、洗い浚い話そうとしている妻には、それがどの様な事かなど、怖くてとても訊けません。
私は、この事については軽く流したくて、

「ああ。稲垣から聞いて知っている。食事を作りに行ったり、掃除洗濯をしに行っていた事だろ?キスまではしていた事だろ?その事はもういい。」
「えっ?彼とキスはしていません。彼と関係をもってからは有りましたが、それまでは要求されても断わりました。」
「それなら稲垣が嘘をついていたと言う事か?そう言えばキスとは言わずに、キスの様な事と言っていたが、キスの様な事とはキスとは違うのか?」
「キスの様な事?あっ・・・それを今から話そうと・・・思っていました。」

これ以上まだ何か有るのかと思うと、もう聞きたくないと思いましたが、妻は私に全て正直に話そうとしていました。

妻が稲垣のアパートに行く様になってから、2週間ほど経った日曜日に、掃除と洗濯をする約束をしていた妻がアパートに行き、チャイムを鳴らしても稲垣からの返事は有りませんでした。

当然、妻が来る事は分かっているので、近くにでも行っているのだろうと思い、預かっていた合鍵で開けて入って行くと、下半身だけ裸の稲垣が椅子に座り、仕切に硬くなった物をしごいていたそうです。
妻は、余りの事に、持っていたバッグを落としてしまい、両手で顔を覆いました。

「すまん、すまん。とんでもない姿を見せてしまったな。誰にも見られたく無い姿を見られてしまった。午前中に来てくれると言っていたか?私は午後に来てもらえると思い込んでいた。」

そう言いながらも、稲垣は下半身を隠そうともしないので、妻は目のやり場に困り、

「それをしまって下さい。私、帰ります。」
「悪い、悪い。そう言わないでくれ。慌てて隠しては、凄く悪い事をしていたようで、余計に恥ずかしいだろ?これでも私の、精一杯の照れ隠しなのだ。気を悪くしないで欲しい。」

急に寂しそうな顔をした稲垣はパンツとズボンを穿き、インスタントコーヒーを2人分作って妻に勧め、自分も妻の向かいに座るとコーヒーを飲みながら、

「軽蔑しただろ?当然軽蔑するよな。私自身、自分を軽蔑しているのだから。こんな歳になってこの様な行為をしているじぶんを、この様な行為をしなければならない自分を、情け無く思ってしまうのだから。」
「いいえ、軽蔑するなんて・・・・・・。」
「妻とはもう3年ほど関係をもっていない。完全なセックスレス夫婦という訳だ。私は妻を抱きたかったが、ずっと妻に拒まれて来た。妻にすれば、他に男がいたのだから当然だったのだろうが、
私にもまだ性欲は有る。風俗にでも行けば良いのだろうが、お金でその様な事をするのは抵抗が有る。そうかと言って浮気をする相手も勇気も無い。結局3年間自分で処理していた訳だ。いや、智子には嘘をつきたくは無いので正直に言うが、本当は風俗の店の前まで行った事は有る。それも2度も。ただ、変なプライドが邪魔をして入る勇気が無かっただけだ。情けない男だろ?どうしようもない男だろ?」

この話で妻の同情をかおうとしているのですが、やはり稲垣は嘘をつくのが上手いと思いました。
この話は勿論作り話なのですが、嘘の話の中で嘘をついたと白状する。

即ち二重の嘘をついて、この話をいかにも本当の事の様に、信じ込ませようとしているのです。

「自分でするというのは惨めなものだ。終わった後に後悔が残る。終って冷静になると、自分のしている時の姿を想像してしまい、自分に対して猛烈な嫌悪感を覚える。そのくせ食欲と同じで、性欲もどうしようもない。溜まってくると知らぬ内に自分の物を握り締めている。智子も笑えて来るだろ?笑ってもいいぞ。自分でも情けなくて笑えてしまう。」
「笑うだなんて。」
「私の人生は何だったのだろう。これから一生この様な事をしながら生きて行く。こんな人生ならもう終っても良いと思いながらも、自分で終らせる勇気も無い。」
「お願いですからそんな事を考えないで下さい。何か私に出来る事は無いですか?何か有れば言って下さい。」

妻は、一般的な意味で言ったのですが、稲垣は待っていましたと言わんばかりに、

「実は、智子が来たので途中で終ってしまった。ただでも出したかったのに、途中で止めてしまったので、情けない事に、今話していても神経はあそこに行ってしまっている。恥ずかしい話なのだが、男の生理として仕方が無いのだ。でも一人で惨めに処理するのはもう嫌だ。はっきりと言うが、協力してくれないか?私を助けると思って手伝ってくれないか?こんな事は智子にしか頼めない。妻にさえ頼んだ事は無い。お願いだ。」

稲垣は、これが目的で、わざと妻にこの様な行為を見せたのでしょう。
いくら没頭していたとは言っても、狭いアパートの部屋でチャイムが鳴れば、人が来たのを気付かない訳が有りません。

「私には主人がいます。そんな事は出来ません。」
「勘違いしていないか?私もご主人を裏切らせる様な真似はさせたくない。少し手伝ってくれればいい。手伝ってもらえれば、自分一人でこそこそとやっているのでは無いので、随分気が楽になる。自分への嫌悪感も少なくなる。頼む、助けてくれ。」

稲垣の頼みは、自分でしている手を、その上から握っていて欲しいというものでした。
こんな頼みは、普通の女性なら決して聞く事は有りません。
それどころか怒って帰ってしまい、二度とここを訪れる事もないでしょう。
やはり妻には、稲垣に対する普通ではない思いが有ったのでしょう。
妻は、稲垣の座った椅子の横に座り、目をしっかりと閉じて横を向き、自分の物をしごき続ける稲垣の手を握っていました。
この時は、最後は稲垣が左手に持っていたティッシュで、自分で受け止めましたが、これでは妻が最後まで目を閉じていて面白く無かったのか、次に行った時には、その様子を見なければならない様に、妻にティッシュを持たせて受け止めさせ、終わった後の処理までさせていました。

その後、稲垣の要求は更にエスカレートし、妻もその様な事を何度かさせられている内に、次第に私に対する罪悪感も薄れ、横から、前から、後ろから妻がする様になり、稲垣は何もせずに、ただ快感に浸る様になって行ったそうです。

特に後ろからする様に要求される事が多かったそうですが、これは妻との密着度も増し、妻の乳房が背中に当たって、気持ちが良かったからだと思います。

「おまえは奴のオナニーを手伝っていたということか?まさか、キスの様な事というのは?」
「ごめんなさい。」
「飲んだのか?」

またこの様な事に拘ってしまいましたが、それと言うのは、私は妻に飲んでもらった事は無かったからです。
勿論、妻に口でしてもらう行為も有りましたが、それはセックスの中の一部としてで、放出にまで至る行為では有りません。
若い時には、妻が生理中で出来ない時に、口でしてもらった事が有ったのですが、妻はティッシュに吐き出し、私も飲んでくれとは言えませんでした。
こんな事で愛情は測れないかも知れませんが、もしも飲んだとすれば、妻の稲垣に対する愛情の深さを感じてしまうのです。

「どうした?飲んだのか?」
「最初は吐き出していたのですが、吐き出されると、凄く悪い事をさせている気分になると言われて。」
「いくら世話になった恩人だと思っていたとしても、普通の女性はその様な事はしない。ましてや、飲むなどという行為は決してしない。やはり、おまえは奴の事をそれだけ好きだったのだな。」
「ごめんなさい。私もそう思います。彼が可哀想に思え、彼に対する恩返しだと思い込んでいたけれど、あなたの言う様に可哀想や恩返しなどでは、あなたを裏切るあんな事までは出来なかった。彼の事も愛していたのかも知れません。彼を喜ばせたかったのかも知れません。私がしてあげる事で、彼が喜ぶ顔を見たかったのかも知れません。ごめんなさい。私は2人を愛していたのかも知れない。でも、彼よりもあなたの事を遥かに愛しています。これは本当です。」
「奴にもそう言っていたのだろ?」
「そんな事は有りません。言い訳にはならないけれど、あなたが側にいたら、決してこの様な事はしませんでした。あなたがいない事で身軽になった様な、自由になった様な気持ちだったと思います。」
「でも、それはおまえも納得した事だろ?確かに俺が単身赴任すると半ば強引に決めたが、それは理香の入学の事も有ったからだ。正直、向こうでは色々な誘惑も有った。しかし俺は全て断って我慢した。それなのにおまえはたった数ヶ月で・・・・・・・。今の俺の悔しさが分かるか?寂しさが分かるか?信頼し切っていた妻に裏切られた男の気持ちがおまえに分かるか?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
「泣いても駄目だ。おまえと稲垣だけは絶対に許さない。法律なんてどうでもいい。おまえと離婚しても、絶対に幸せにはさせない。どの様な手を使ってでも、必ず地獄に落としてやる。」

心の中で、まだ何処か妻を庇う気持ちが有った私も、これで妻とは終ってしまったと思いました。
自分の言葉が更に怒りを誘発し、どんどん気持ちが昂っていき、復讐鬼にでもなった気分です。

最初は稲垣の話を聞いて、妻は稲垣に騙されて関係をもったと思いましたが、妻の話を聞いていると、稲垣の嘘を承知で関係をもった様です。
自覚は無くても、気が付かぬ内に自分自身を偽り、稲垣の言う事を嘘と承知で騙されて、自分の罪悪感を和らげていたのだと思います。
ここまでなら、稲垣よりも妻の方が一枚上手だったという事になります。
しかし、あの稲垣が、その様な妻の気持ちに気付かないはずが有りません。

結局、稲垣は、そんな妻の気持ちなどお見通しで、更にその上を行き、妻が自分の要求に従い易い様に、嘘をついて切欠を与え、妻の背中を押していた様な気がします。
お互い好きな気持ちが有りながら、お互いそれを知りながら、家族や仕事を捨て切れなくて、その事を口に出す事も出来ずに、こんな駆け引きを続けていたのでしょう。
今後、妻とは同じ人生を歩んでは行けそうに有りませんが、このままでは余りに寂し過ぎます。
その寂しさを多少でも癒す事の出来る望みは、妻が数ヶ月前から変わったと言う、稲垣の言葉だけでした。

妻とは終ってしまったと思っていても、私の選択は離婚だけでは有りません。
離婚して新しい人生を歩む。
娘のために我慢して、修復を目指す。
修復は目指せないが娘のために離婚せず、仮面夫婦になる。
離婚せずに一生虐め抜いて、奴隷のように扱う。

「稲垣が、数ヶ月前から智子の様子が変わり、智子が離れて行く様な気がしていたと言っていたが、何か気持ちの変化でも有ったのか?」
「理香が彼の子供だと思い込んでからは、彼と一緒になる事が最善だと思っていました。理香にとっても、その方が良いのかも知れないと思いましたが、本当は私が怖かっただけかも知れません。あなたに知れれば離婚になると思うと怖かった。離婚された後はどうなるのか怖かったです。私が自分で招いた事だとは言っても、何もかも無くしてしまう。それなら新しい家族を持てる方を選ぼうと、ずるい考えをしてしまいました。」
「それだけでは無いだろ?稲垣の事も愛していた。」
「その時は気付きませんでしたが、いいえ、気付こうとしませんでしたが、それも有ったかも知れません。彼よりも遥かにあなたの事を愛していても、暫らく会っていなかった事も有って、目先の愛を選んでしまったのかも知れません。一時はあなたへの罪悪感を忘れたくて、何もかも忘れたくて、私から彼を求めてしまった事も有りました。でも何故か彼との関係に違和感を覚えて来ました。私は逃げているだけで、本当に一生を共にしたいのはあなただと気付きました。例え、理香が彼の子供でも、あなたと3人で暮らしたいと、はっきりと分かりました。」
「それなら、何故、あいつの言う通りにしていた?何故、あの様な格好までさせられていた?何故、断らなかった?」
「断れませんでした。理香の為に離婚を覚悟して、子供達とも別れる覚悟をした彼に悪くて断れませんでした。でも本当は、これも私のずるさで、あなたに捨てられた時の行き場所を、確保しておきたかったのかも知れない。」

これを聞いて、離婚後に稲垣との再婚も有り得ると思った私が決めたのは、離婚せずに妻を虐めて、一生私の側で償わせるという道でした。

「智子は離婚を覚悟して話したと思うが、そんなに離婚したいか?」
「えっ?ここに居させて貰えるのですか?お願いします。どの様な償いでもします。」
「勘違いするな。おまえとは普通の夫婦には戻れない。これからは全て俺の言う事を聞け。おまえに自由は無い。白い物でも俺が黒だと言えば黒だ。それでも良いならここに居ろ。決して勘違いはするなよ。これも理香の為だ。おまえの顔など見たくないが、理香の為に我慢する。」
「ありがとうございます。どの様な形でも、今の私には嬉しいです。」

私に逆らう事が有った場合は、離婚を約束させ、翌日、妻に離婚届を貰って来させ、離婚届の妻の欄と、私の書いた離婚条件にも署名捺印させようとすると、妻は躊躇しました。

突然の海外赴任4に続く

コメント:0

コメント入力フォーム

Home > 不倫・浮気 > 突然の海外赴任3

ブログ内検索
携帯用QRコード

当ブログの携帯用QRコードです。
携帯用QRコード
http://www.moero.biz/i/

新着萌え体験フィード
PR

FTC株式会社

中村元太郎

リーブ21

Return to page top