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有紀

  • Posted by: moe
  • 2010年8月16日 09:05
  • 恋人

金曜の深夜、俺(上原信二:仮名)は車を飛ばしていた。
急な納期の変更で、残業を余儀なくされた為だ。

「何で金曜のこんな時間まで、俺って仕事してんだろうね・・・ま、彼女いないからいいけど・・・」

時間はもう午前1時。
佐賀の職場から福岡の自宅までは、どう飛ばしても40分はかかる。
道中は眠たさとの戦いでもあった。
と、殆ど車の通らない山の中で、信号に引っかかる。

「ちっ。」と

舌打ちし、車内で背伸び。
と、突然誰かがドアをノックする。

「助けて下さい!」

女の子が、凄い形相でドアをノックしている。
な、なんだ?
慌ててロックを外し、彼女を車内へ。

「は、早く~。」

彼女に即され、車を走らせる。
何度も後ろを気にする彼女。
殆ど裸に近い格好・・・

厄介な荷物を運んでるのか?
ドアを開けた事を今頃後悔。

「大丈夫?警察に行く?」
「け、警察はだめ!」

しばし沈黙・・・

「どこで降ろそうか?」
「・・・」
「その格好じゃ、適当に降ろすわけにもいかないよね?」
「・・・」
「どこまで行けばいい?」
「行くとこない・・・」

やっぱ厄介な荷物だぜ・・・

「そう言われても・・・困るんだけど・・・どっかで降りてもらわないと・・・」
「今夜・・・泊めてもらえませんか?行くとこなくて・・・お願いします!」
「でもね・・・」

自宅アパートの、いつもの駐車場に車を停める。
周囲を見回し、誰もいない事を確認し、車内に声をかける。

「いいよ・・・誰もいない。」

俺のジャケットを羽織っただけの少女が、助手席から降りて来る。
二人で駆け足で、アパートの2階の俺の部屋へ。
鍵を開け、中に入って安堵する俺。
思わずへたり込んでしまう。

「助かります・・・」

玄関に立ち尽くした少女が言う。

「まだ、この子がいたんだよね・・・」

とりあえず彼女には、シャワーを浴びてもらう事にする。
手足はドロだらけだし、一枚だけ身につけたショーツも汚れている。
この格好で、部屋に入られても困る。
玄関から浴室まで、彼女の黒い足跡が残った。
それを拭き終え、バスタオルとスエットを用意してやる。
さすがに下着までは持ってないけど。
でも・・・どうすっかな、この子。
訳ありなんだろうな。
そう考えると、頭に不安が残った。

「訳を聞く権利、俺にはあるよね?」

髪を拭きながら出て来た彼女に、俺は怖い顔をして言った。

「それに君には、訳を話す義務があると思う。違う?」
「そうですね・・・」

彼女は小さな声で、訳を話しだした。

名前は、秋野有紀って、本当かどうかは知らないが・・・
17歳の高校生で、家を飛び出したはいいが、見知らぬ若い男達に拉致られて、輪姦されて・・・
隙を見てどうにか逃げ出すも、ここがどこかも分からない。
そんな時、たまたま信号待ちしている車を見て、とにかくこの場を離れようと、必死でドアを叩いた。
それが俺との出会いらしい。

「家出なんかするからだろ?家に帰れよ!」

俺は吐き捨てる。

「家に帰ったら・・・お父さんに何されるか分からないんだもん!」

彼女の父親は酒乱で、それを苦にした母親は蒸発。
残された彼女に対して父親は、暴力を振るう。
それだけならいいが、この頃は服を脱がされたり、性的な事も・・・

「でも・・・結局は家出して、ひどい目にあってんじゃん!」

ちょっと言い過ぎたと思ったけど・・・

「それは・・・そうなるなんて・・・」

泣き出した彼女。

「ここにいてもさ・・・俺が君に、ひどい事するかもしんないよ。」
「お父さんより・・・マシです・・・」

やはり困った荷物だ。
彼女にベッドを占拠され、俺は畳の上で、小さくなって寝る。
参ったな・・・
そう呟いてしまった。

翌朝、いい匂いで目が覚めた。
台所に立つスエットの後姿が、何やら作ってるのが分かる。
俺が起きた事に気付いた彼女が、

「おはよーございます。」

と微笑みかけてきた。

「もうすぐご飯出来ますから、顔を洗っててください。」

なんか・・・新婚みたいだぞ・・・
言われるがまま、顔を洗って待つ俺。
テーブルに並んだのは、ご飯と味噌汁と卵焼き。

「冷蔵庫にあまり入ってなくて、これ位しか・・・お口に合えばいいですけど・・・」

卵焼きを試しに頬張る。

「うまいっ!」

思わず口に出してしまい、

「本当ですか~っ?」

と嬉しそうな彼女。
確かに美味い・・・
あっと言う間に食べ尽くした俺。

「良かった~。」

彼女はそう言うと、笑顔で皿を下げていった。

「あのさ~・・・やっぱ警察に行こうよ・・・」

彼女の後姿に、俺は話し掛けた。
一瞬だけ、彼女の動きが止まった。

「ここにさ~・・・いつもでも置いとけないよ。警察に行って、事情を話そうよ。」
「・・・家に連れ戻されます・・・」
「そんな事ないんじゃない?福祉とか、きちんと話をすれ。」
「お願いっ!」

俺の言葉を遮り、彼女は振り返って叫んだ。

「何でもします!何でも・・・だから、他に行く所が見つかるまで・・・お願いしますっ!」
「他にって、何処に行くのよ?」
「働く場所みつけて、住むとこも・・・それまで。」
「甘いね・・・」

今度は俺が言葉を遮る。

「君みたいな年齢の子をどこが雇う?住むとこだって、保証人が必要だよ。誰がなるの?」
「最悪は・・・風俗でも・・・」
「馬鹿じゃないの!」

俺は益々声を荒げた。

「警察に行って事情を話せば済むのに、それもやらずに自分を売るの?馬鹿じゃない?」
「でも・・・お父さんの所には・・・」

そこまで言うと彼女は、声を上げて泣き出した。
参ったな・・・
俺は頭を掻くだけだった。

ブカブカのジーンズを穿き、大きなTシャツと、その上からこれまた大きなトレーナーを着た少女が、俺の横を歩いている。
彼女が着てるのは、まぎれもなく俺の物。

「着る物もないので、就職も探せない。」

と言われ、借用書を書かせて金を貸す事に。

「『払えない時は、体で支払います』って書きましょうか?」

と言われ、頭を小突いた。

「テヘヘ。」

と笑いながら借用書を書き上げ、

「ありがとうございます。」

と頭を下げる彼女。
嘘偽り無く、可愛いと思った。
とりあえず、下着は絶対。
普段着る服や靴も必要。
貸したとは言え、かなりの出費。
一通り揃え、空になった冷蔵庫の補充も必要。
まったく・・・
舌打ちする俺の横で、少女がくったくない笑顔を浮べていた。
その笑顔を見て、俺も不思議と笑みがこぼれるのであった。

「似合いますか?」

家に帰り、早速買ったばかりのデニムのミニスカに、パーカーを着た彼女が微笑む。

「あー似合うよ。」

と返すと、微笑む彼女。

「でも・・・下着はまだ着けてなくて・・・」
「はぁ?」
「洗ってから着けないと、なんかイヤで・・・」

ミニスカの下がノーパンだなんて、考えただけで・・・
いや、いかんいかん!
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、

「ご飯作りますね~。」

と笑顔で言い残し、彼女は台所に向った。

飯食って風呂に入り、布団に入ってテレビを見ていた。
彼女は片付けを終え、

「お風呂に入ります。」

と言って浴室へ。
俺はウトウトしだし、気付いたら・・・
部屋は何時の間にか真っ暗で、テレビを消えていた。
そして俺の布団の中に、細い裸体が転がっていた。

「ど、どうしたの?」

思わず飛び起きた俺。

「今日は・・・あの・・・ありがとうございました。あの・・・好きにしていいんで・・・私・・・恨みませんから・・・」
「はぁ?」
「感謝してます。本当です!でも私・・・何もお返しが出来ないから・・・」

そう言うと彼女は眼を閉じた。

「いいよ、そんな事しなくて。」

暫く沈黙し、俺はそう言った。
沈黙の間、理性が戦っていた事は言うまでもないが・・・

「有紀ちゃんがいて、正直面倒もあるけどさ・・・少し楽しかったりもするしね。」
「だから・・・服を着て、ベッドで寝なさい。」

俺はそう言うと台所に行き、冷蔵庫からお茶を取り出し、一気に飲んだ。
しかし部屋に戻っても、彼女は布団の中にいた。
泣いていた。

「ありがとう。」

と何度も繰り返しながら。
俺はベッドに腰掛け、彼女が落ち着くのを待った。
でも布団も被らず、ただ座って泣く彼女・・・
そう・・目の前には、17歳の裸体がね。

「あの・・・」

落ち着きを取り戻した彼女が、やっと口を開き、目を奪われてた自分に気付き、ぎょっとした。

「一緒に寝てくれませんか?」
「な・・・さっき言った事、分かってない?」
「ち、違いますよ!」

彼女は慌てて否定する。

「この家・・・暖かくて・・・なんか・・・甘えたくて・・・添い寝してもらえると、嬉しいなと・・・」
「我侭ですよね・・・困りますよね・・・でも・・・」

俺の横で女が寝るのは、ホント久しぶりの事で・・・
しかも相手は女子高生ときてる。
加えて、何の警戒もなしにクークーと寝息を立て、俺に密着している。
寝れる訳がない!
俺は悶々と過した。
段々外が明るくなって行く。
でも、何時の間にか寝てた俺。
気付くとテーブルに食事が並べてあり、書置きが残されていた。

「仕事探してきます。」
「見つかるわけないし。」

そう呟く俺。

「見つからなければいいな。」

本心でそう思った。

15時頃、ニコニコ笑顔で有紀は帰宅した。

「仕事、見つかりましたぁ!」

と。

「えっ?どこよ?」

マジ風俗じゃなかろうなと、心配した俺。

「駅前の、花屋さんです!でも・・・バイトです・・・」

まぁ、バイトでも、一人で探したのだから偉いと思う。

「兄と暮らしてる事になってまして・・・お兄ちゃん、これからもヨロシクお願いします!」

あらら・・・兄になっちゃったよ・・・って、

「えっ?ここから通うの?」
「だって・・・住み込みじゃなかったし・・・あのバイト料じゃ、アパート借りるのも無理です・・・」
「本気で?」
「暫くしたら、もっと給料のいい所探しますから、それまで・・・お願いします!」
「絶対にそうしてよね。」
「はい・・・」

と言いながらも、俺の顔はほころんでいたと思う。

その夜奮発して、就職祝いをしてやった。
有紀は嬉しそうに、ずっと笑ってた。
俺もアルコールが入って、上機嫌だった。
しかし酔いが回って・・・
いつの間にか寝てしまってた。
でも・・・
有紀にキスされて、目が覚めた。
目を開けると、目を閉じた有紀の顔があった。
有紀も俺が起きたのに気付き、目を見開いたが・・・

「寝て下さい・・・明日・・・早いですから・・・」

有紀はそう言うと目を閉じ、もう一度唇を重ねてきた。
俺も目を瞑り、そしてそのまま眠りについた。
有紀に愛撫され、深い眠りに落ちた。

有紀が転がり込んで来てから、2ヶ月が過ぎていた。
有紀は相変わらず、花屋のバイトを続けていた。
8:00~15:00の比較的楽なバイト故、毎日働いてもその程度の稼ぎしかなかった。
俺に入れてくれる食費と、着る物を少しだけ買ったら、もう手元には残っていなかった。
光熱費等が俺の負担になっている事に対し、有紀は申し訳なさそうだった。
俺も口では、

「まったく・・・もうっ!」

とは言うが、悪い気はしなかった。
有紀が来るまでは、ただ寝る為だけの家だったが、有紀が来てからは会話がある。
家に帰る理由が出来た事が、正直嬉しかった。

誰も信じないだろうが、2ヶ月が過ぎても、俺と有紀はプラトニックだった。
俺が不能って訳でも、有紀が不細工って訳でもない。
正直、出来る事なら抱きたかったが・・・
最初に

「体でお礼を・・・」

的な事を言われ、理性と欲望が戦った挙句、不幸にも理性が勝ってしまった。
そしてそこで、

「いいよ。」

なんて言ってしまったもんだから・・・
俺の方から誘うのも格好悪いと思ったし、有紀の方からもあれ以来、

「好きにして下さい。」

とは当然言わないし。
また、バイト先に「兄と同居」と言った為か、ずっと「お兄ちゃん」と呼ばれてるのもあり、「いい兄」になってしまっているのだ。
でも、やはり俺も健康な男。
有紀がバスタオルを巻いた姿で風呂から出て来たり、ベランダに有紀の下着が干してあったりするとね・・・
ついついムラムラしてしまうのも事実であった。

彼女と別れてから有紀が来るまでの7ヶ月間、休みの日はずっと家にいた俺だが、有紀が休みの日曜日、二人でよく出かけた。
デートって感じではないが、街まで出かけてデパート巡りをしたり、時々は遊園地にも行ったりした。
有紀は必ず腕を組んで来たり、手を繋いで来たりと、まぁ人の気も知らないでって所か・・・
「お兄ちゃん」と、屈託ない笑顔で声を掛けられ、衝動に駆られたいような、自制したいような複雑な心境。
ま、とりあえずは楽しいからいいかと、自分に言い聞かせて自制しているのだ。
そんなある日曜日、

「海を見たい。」

と有紀に言われ、二人で海に沈む夕日を見た帰りに起きた事が、楽しかった日々を粉砕してしまった。

朝早く起きてお弁当を作ったのもあったろうし、はしゃぎすぎたのもあったろう。
帰りの車の中で、有紀は寝息をたてはじめた。
俺の肩にもたれかかるように・・・
またしても理性と欲望が戦い、理性に勝ってもらいたいと思った俺。
衝動を殺さんと、アクセルを強めに踏んだのが失敗だった。
ファーーーーーーーン
後ろからパトランプが近付いて来た時、「1万とウン千円」が消えるのを確信した。

指定された窪地に車を停め、有紀を起こそうとしたところで、窓をノックされた。
窓を開けると、「免許証」とぶっきらぼうに言われる。
言われた通りに免許証を提示すると、

「スピード出してたね~。」

と言われ、

「まぁ・・・」

と力なく答えた。

「18km/hオーバーだね・・・ここ、40km/h規制って知ってた?」
「いや・・・」
「知らないと言ってもね・・・ちゃんと標識があるんだから、きちんと確認してなきゃね。って自動車学校で習わなかった?」
「まぁ・・・」
「じゃ、きちんと期限までに納めてね。」
「はぁ・・・」
「しかしそれにしても横のお嬢さん、よく寝てるね?彼女?」
「いや・・・妹です。」

ちょっとドッキリした。
家出少女とは、口が裂けても言えないから。

「ふ~ん・・・そう・・・可愛い妹さんだね。似なくて良かったね。」
「余計なお世話でしょ!それも仕事ですか?」
「まぁまぁ・・・お嬢さん!お兄さんスピード違反で検挙されちゃったよ!」
「うるさいなー!」

う、う~ん・・・
騒ぎで有紀が目を覚ました。

「お嬢さん、おはよ。」
「おは・・・えっ?えっ?な、なに?なんで?」

警官を見て、有紀が明らかに動揺した。
警官も、慌て方が尋常ではないと思ったのか、

「ねーお嬢さん、名前は?」
「えっ・・・秋野・・・秋野有紀です・・・」
「えっ?秋野?お兄さんと姓が違うね?」
「それは!」

俺が大声を出して遮った。

「それは・・・俺らの両親が離婚して・・・有紀は母親に引き取られて、姓が変わったんですよ。今日は久々に会って、海が見たいって言うから・・・って、そこまで言わなきゃいけないんですか?」
「いや・・・そう?そうか・・・それは失礼したね・・・じゃ、納期までに支払ってね。」

警官はそう言うと、パトカーに戻って行った。
俺はホッと胸を撫で下ろした。

ピンポーン・・・
土曜日の昼過ぎ、仕事が休みで家で寝ていたが、チャイムが鳴らされているのに気付いた。

「誰だ?セールスだったら、追い返してやろう・・・」

そう思って玄関を開けると、眼光のきつい中年の男が二人、そこに立っていた。

「上原・・・信二さんですね?」
「そうですけど・・・」
「私は、○○署少年課の者ですが・・・」

な、なんで?
私服って事は刑事?
なぜ俺の所に?
俺はかなり動揺した。

「この前の日曜日の18:00頃、○○でスピード違反で検挙されてますね?」
「は、はぁ・・・でもまだ、納付期限までは日数ありますよね?」
「その事じゃなくて・・・」

な、なんだよ・・・

「その時横に乗せていらっしゃったお嬢さん・・・秋野有紀さんの事で聞きたいんですが・・・」

刑事の目が、尚もきつく光った。
俺は力が抜けて行くのが分かった。

「秋野有紀さんは・・・今は・・・いらっしゃいませんね?」
「はい・・・」
「どちらに?」
「駅前の・・・花屋でバイトしてるはずですが・・・」
「そうですね。で、有紀さんとはどちらで?」
「2ヶ月程前に・・・仕事帰りに・・・彼女から突然車のドアを叩かれ・・・」
「有紀さんのお父様から、家出の捜索願いが出されてます。彼女が家出って事は?」
「・・・・・・知ってました・・・」
「そうですか・・・詳しい話しは、署でお聞かせ願えませんか?」
「警察署ですか?」
「あなたには、未成年者略取及び誘拐罪と、営利目的等略取及び誘拐罪、ならびに児童福祉法違反の疑いが持たれてます。署までお越しいただけませんか?」

別に・・・悪い事をした訳じゃない・・・
俺は自分にそう言い聞かせ、刑事の車に乗った。

俺は警察で、有紀との出会いから今日に至るまでを洗い浚い話した。
洗い浚い話したにも関わらず・・・

「あのね~君ね~・・・2ヶ月も同じ屋根の下にね・・・あんな可愛い子と・・・あり得ないでしょ?」
「でも、本当に・・・何もしてませんって!」
「う~ん・・・あなたね・・・見ず知らずの子をね・・・しかも全裸に近かった?そんな子をだ・・・」
「保護するのは分かるにしても・・・家に連れて行ったまではいいとして・・・一緒に住む?何処の誰とも分からないのに?」
「それは・・・明るくて・・・いい子だったし・・・」
「ほらっ!そんな子をね・・・放っておける?2ヶ月も?」
「でも・・・」
「君がね!手引きしたんじゃないの?家出しておいでってさ!」
「違いますって!」

そんな問答が繰り返された。
加えて最悪な事に、俺の逮捕状が出され、家宅捜索を受けたのは元より、身柄を拘束される事となった。

3日後、俺は釈放された。
有紀の証言と俺の証言が一致し、また、それが認められるまでに3日を要した。
しかし俺は・・・
逮捕された事で、職を失った。
無実と判明したにも関わらず、犯罪者のレッテルが貼られてしまった。
でも、そんな事よりも・・・
当然ながら、有紀がいなくなった。
職を失った事より、社会的信用を失った事よりも、まずは有紀がいなくなった事が悲しかった。
有紀は今、どこで何をしてるのだろう?
暗い部屋で一人、俺はずっと、その事だけを考えていた。

職を失った俺は、アパートを引き上げ、実家に戻る事にした。
稼ぎがなくなった事で、家賃を払えなくなったから、それは当たり前の事だが・・・・
でもそれよりも、有紀と2ヶ月を過したこの部屋で、一人で生活するのは苦痛だった。
転居を決意させたのは、それが一番大きかった。
親は俺の事を優しく受け入れてくれた。
職種は大きく異なるが、俺の働き口も探してくれた。
親が探してくれた仕事は、地元の小さな工場の溶接工見習い。
仕方ないよね・・・
俺は自分に言い聞かせ、大学を卒業以来、ずっと住んでたアパートを出た。

地元に帰って半年が過ぎた。
資格を取得し、溶接工見習いの「見習い」が外れ、少しだけ所得が増えた。
ま、雀の涙程度だが・・・
その頃になると、親が見合いの話しをしきりに持って来るようになった。
いい加減、うんざり・・・

「自分の相手位、自分で探すって!」

俺はそう両親に言い放つが、両親は

「でも・・・お前ね・・・」

と返した。
両親が言いたい事は分かる。
俺が逮捕された事は、周知の事実。
実際は無実であったが、周囲の目は、「逮捕された男」として俺を見る。
また、噂に尾ひれがついて・・・

「女子高生をアパートに連れ込んで、2ヶ月もの間、毎晩毎晩・・・」

なら、まだ可愛い。

「上原さんちの信二君、女子高生を監禁してさー・・・」

そんな男が、まともな結婚なんて出来る訳ないと、両親は言いたいのだろう。
そして俺自身は・・・
有紀の事を今も引きずっていた。

「有紀に会いたい。」

見合いなんて、結婚なんて・・・正直考える余裕がなかった。

お兄ちゃん、お元気ですか?
その節は、お兄ちゃんにいっぱいいっぱい迷惑を掛けて、本当にごめんなさい。
私はあれから、家に連れて帰られました。
そしてお父さんに・・・
何度も何度も市役所に行って、福祉の人に話しをしたんですが、福祉の人もその都度お父さんに言い包められて。
私の言う事が正しいと分かってもらう為に、少々無茶もしましたが、何とか分かってもらえたようで・・・
お父さんが、警察に捕まりました!
やっと私、自由になる事が出来ました!
もっと早く、ああなる前に、私がそうしていれば、お兄ちゃんに迷惑をかけずに済んだんですけどね。
お兄ちゃんがこの手紙を読む頃、きっと私は、鹿児島のお婆ちゃんの所にいると思います。
でもお兄ちゃん、まだあのアパートに住んでるのかな・・・
この手紙が、宛先不詳で返って来ない事を願います!
ではお兄ちゃん・・・お元気で・・・
いっぱいいっぱい迷惑をかけたけど、お兄ちゃんに会えたから、家出してよかったと思います。
ありがとう!大好きなお兄ちゃん!
有紀

前住所から転送され、不意に飛び込んで来た手紙を、俺は何度も何度も読み直した。
涙が自然と頬を伝った。
勝手な事ばっかり言いやがって!
転居先の住所位書いてよこせよ!
そしたら俺・・・
今すぐでも飛んで行くのに・・・
手紙を貰った嬉しさと、会うに会えない空しさが、複雑に交錯した。

「もう二度と会えないのか?」

返事を書きたくても書けない自分に、苛立ちを覚えた。
でも・・・会いたい・・・
そう思うが否や、俺は車のエンジンをかけてた。

「鹿児島に行くぞ!」

欲望が理性に打ち勝った瞬間だった。

鹿児島と言っても広いと言う事に、行ってから気付いた馬鹿な俺・・・

「どうしよう・・・このまま帰るか?」

でも・・・会いたい・・・
俺は恥も外聞を投げ捨て、鹿児島駅に立った。

「秋野有紀さんを探してます。心あたりの方は、些細な事でも結構です。教えて下さい。上原信二」

ダンボール片にそうマジックで書き、俺は始発から終電まで、駅前に立ち続けた。
しかし当然ながら、簡単には情報なんて入らない。
「働いてる」と騙され、風俗店に連れて行かれた事もあった。
出てきた女は、有紀とは似ても似つかない「ゆき」と言う源氏名の女。
そんな女に会う為に、大金を支払った自分が情けない・・・
「桜島で見たぞ」と言われ、フェリーに乗ったはいいが、小噴火が発生して怖い目に合った。
「川内だろ?」と言われ、「一緒について行ってやるよ」と、タクシー代わりをさせられた事もある。
そうして一月が過ぎたのに、有紀の情報は皆無だった。
加えて、日数経過と共にみすぼらしくなった格好のお陰で、誰も俺に話しかけてこなくなった。

「ダメかな・・・」

実を言うと、とっくに諦めていた。
会えるなんて思ってない。
ただ自分の為だけに、俺は立っていた。
自分が納得する為だけに、俺は立ち続けた。

「お、お兄ちゃん?」

奇跡が起こった。

「本当に・・・お兄ちゃん?」

体中の力が抜け、俺はその場に崩れ落ちた。
有紀は俺に駆け寄り、崩れ落ちた俺の頭を抱えた。

「な、なんで?なんでこんな所に?ねぇ・・・お兄ちゃん!」

有紀の問いに答える気力は、その時の俺にはなかった。

「お兄ちゃ~~~ん。」

有紀は大粒の涙を流した。
有紀が俺の為に泣いている・・・
今俺は、有紀の腕の中にいる・・・
もう・・・何も望まない・・・
俺の意識は、徐々に薄れて行った。

病院のベッドに、俺はいた。
極度の栄養失調と貧血だったらしい。
俺が1ヶ月も駅前に立っている事が新聞の投稿欄に掲載され、それを見た有紀の友人が

「ねぇ・・・これ・・・有紀の事?」

と、半ば冗談で言った事が奇跡を生んだ。

「なんであんな無茶をしたのよ?」

有紀が笑いながら聞く。

「うん・・・」

答えられない俺。

「そんなに私に会いたかった?」

尚も笑いながら、有紀に聞かれた。

「まぁ・・・ね・・・」
「ふ~ん・・・」

どことなく、満足そうな有紀の顔。

「お兄ちゃん、私の事好き?」

顔が赤くなって行くのが分かった。
しかし答えられない。

「私は・・・」
「会えるかどうかも分からないのに、駅で1ヶ月も待ってくれてる男の人から、『好き』なんて言われたら・・・」

俺は有紀の顔を見た。

「『キモッ』って言っちゃうかもね!」
「な、な・・・」

俺の表情を見て、クスクスと笑い出した有紀。

「でも、すっごく好きな人だったら、例えそんな事しなくても、ただ『好き』と言われるだけで、すっごく嬉しいだろうな・・・ねっ、お兄ちゃん!」

俺は有紀を強く抱きしめた。
抱きしめた耳元で、俺は囁いた。
今までずっと言えなかった事。
そうだと自分で気付いてたのに、あえて気付かない振りをしてた事。
離れてやっと、口にしなかった事を悔やんだ事。
そう・・・もっと早く、そう言ってれば良かったのにと思った一言。

「好きだよ・・・有紀」
「ん?何?聞こえないよ。」

有紀はそう返してきた。

「好きっだって言ってるだろ!」
「アハハハハ。」

有紀が笑い出し、俺は有紀の体から離れた。

「アハハハハハ。」

有紀のヤツ、まだ笑ってやがる。

「ねぇお兄ちゃん・・・やっと言ってくれたね。2ヶ月もずっと一緒だったのに、私に手も触れようとしなかったのにね。」
「あー・・・あれは・・・」
「女として見てもらえてないんじゃないかと、結構ショックだったんだぞ!」
「ごめん・・・」
「いいよ、謝らなくて。今こうして、皆の前で大きな声で言ってくれたから!」

俺はぎょっとして、辺りを見回した。
そうだよな・・・
死ぬ訳じゃないし、ただの栄養失調と貧血の俺・・・
個室じゃないよな。
同室の7人がニコニコと、俺たちを見ていた。

「お兄ちゃん、ねぇ・・・キスしようか?」

有紀が笑いながら尋ねてきた。

「おいおい、姉ちゃん。ここは病院だよ!するならせめて、カーテン位閉めてくれよ!」

年配の患者さんが、そう言って笑った。

「はぁ~い。」

有紀はそう言うとカーテンを閉め、俺に抱きついてきた。
俺と有紀は、そっと唇を重ねた。

「あぁ~あ・・・やってらんねーなー。」

さっきの年配患者の声がした。

「若いっていいな~。」

今度は別の声だった。

プッ

「なんだよ!」

俺は愛撫をやめ、突然噴出した有紀に尋ねた。

「だって・・・」

こうなると有紀は止まらない。
キャハハハハと、涙を流しながら笑い出した。

「なんだよ!」
「だって・・・だって・・・キャハハハハ。」
「まったくもう!また思い出し笑いしやがって!」

有紀は俺に抱かれる時、決まって思い出し笑いをする。

「今、こうして抱かれてるんだね~。」

と考えると、

「あの時はさ・・・2ヶ月も放っておいたくせにさ。」

と思い出し、

「でも、『キモッ』って言った時の、お兄ちゃんの顔って言ったら・・・」

となったら、もう笑いが止まらなくなるらしい。

「あったま来た!もう、愛撫なんかしてやんえ。無理矢理やっちゃる!」
「だめよ~やめて~。」

もうすっかり濡れてるのだから、無理矢理でもないが・・・

「待って~。」

と言う有紀の声を無視し、俺は挿入した。

「だ、だめ・・・待って・・・」

有紀が俺の腰を押さえつけた。

「まだ・・・儀式が済んでないよ・・・」

俺は挿入したまま、有紀に囁いた。

「好きだよ・・・」
「私も・・・」

有紀が答える。
唇を重ねあい、ゆっくりと腰を動かし始めた。
有紀の息遣いが、少しづつ荒くなってきた。

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